次世代PGの王道路線~トレ・ヤング~

トレ・ヤング編とおまけのディアンジェロ

前回はフォックスとマレーでした。この2人の特徴は自ら得点する能力がありながら、PGとして周囲のプレーを生み出していくこと。周囲を見回しながら、必要な時に自分で突破するフォックスと、小気味よくパスを回してリズムを生み出し、その中で自分も得点していくマレー。

フォックスはクリス・ポール+ウォール
マレーはトニー・パーカー+アーヴィング

なんていう例え方で、オールドスクールなPG像と現代的な得点力を併せ持った存在という見方をしています。ともに「ボールを長く持つ」タイプのPGではなく、チームメイトのやりたいプレーをやらせるようなPGです。いろんな選手と合うタイプだといえます。

それはまた「自分自身はエースではない」状況から生み出されているPG像でもあります。フォックスにはヒールドというシューターがいてこそのプレースタイルであり、マレーにはヨキッチというポイントセンターがいてこそのプレースタイルでした。

それに比べるとトレ・ヤングとディアンジェロ・ラッセルの2人は「自分自身がエースとしてプレーする」タイプのPGです。得点でチームを引っ張りながら、試合全体もコントロールしなければいけない。ともに再建中のチームでプレーしたことで勝利が全てといった価値観ではなかったものの、「PGの存在がチーム戦術を決定づける」ようなプレーをしていました。ここがチームの中で有効に機能しているフォックスやマレーとは異なります。

〇トレ・ヤング
得点 19.1
3P 32.4%
アシスト 8.1
ターンオーバー 3.8

〇ディアンジェロ・ラッセル
得点 21.1
3P 36.9%
アシスト 7.0
ターンオーバー 3.1

数字的にはフォックスとマレーを少し上回る程度の得点ですが、アシスト数も多く、得点面での貢献とパサーとしての役割両方をこなしています。その分、ターンオーバーも多め。とはいえ同じような位置づけになるトッププレイヤーはウエストブルック、レブロン、ハーデンはもっとターンオーバーが多いので、若い2人の方が

オフェンス面で多くの仕事を担当するプレースタイルとしての完成度が高い

という見方も出来ます。もっとも2人ともトッププレイヤーたちとは得点数が段違いなので、一概に同じ扱いをするってのは違いますが。若いゆえにFG成功率の低さが課題になっていて、ディアンジェロは3Pが決まるようになってオールスターに駆け上がりました。いつか平均25点を超えた頃にターンオーバー数がどうなっているかに注目です。

ウォリアーズに移籍したディアンジェロにその可能性は低いけど。なお、今回はヤングとディアンジェロに触れる予定でしたが、ヤングだけで長くなったのでヤング編。頻繁に書いているからディアンジェロ編は要らないでしょ。

◎カリーと同タイプなのか

NCAAでフレッシュマンにして得点王&アシスト王となった怪物PGは、サイズもフィジカルもなく、かといってフォックスのようなスピードに秀でているわけでもないのでした。圧倒的な身体能力を発揮しているウエストブルックやレブロンとは真逆にいる存在で、ロング3Pを駆使することからカリーと比較されていました。

部分部分を切り取ると確かにカリーそのもので、3Pだけでなく、一回自分がスクリナーになっておいてからボールをもらいに行くプレーや、細かいハンドリングで隙間をつくプレー、フィジカルが弱いからこそファールを貰いに行くプレーなどなど。

その中でもドライブから218本打ったフローターと245本打ったレイアップは「動きながら打つシュート」として、カリーに通じる特徴がありました。

〇ドライブからのシュート
フローター 218本
レイアップ 245本
フィンガーロール 24本

しかし、意外にもカリーの数字をみるとここに分類されるプレーは少なかったのでした。

〇カリーのドライブからのシュート
フローター 45本
レイアップ 61本
フィンガーロール 65本

カリーと比較したくなるヤングですが、実はそのプレーは本質の部分で似ていないのかもしれません。カリーのフローター技術は言うまでもなく一級品であり、超高確率で決めてくるわけですが、ヤングはプレーの頻度が段違いで、「シュートを決めるために使う」カリーに対して、「プレーの中で自然な流れで使う」ヤングという比較が出来る気がしています。

〇3Pアテンプト
ヤング 483本
カリー 808本

同じようにロング3Pを駆使するけれど、全1340本のシュートのうち800本を超えるアテンプトが3Pのカリーはやっぱりシューターであり、アウトサイドシュートで自分のプレーを組み立てていますが、ヤングは1256本のうち483本のみ(もはやこの数字は”のみ”と表現されるようになった)しか打っておらず、同じくらいの本数がドライブしながらのシュートになっているわけです。

サイズも身体能力もない選手がドライブからプレーを構築する

特殊系のカリーに比べると王道なプレーをしているヤング。そしてこれらの特徴から実は似ているのはストックトンなんじゃないかっていう。もしもストックトンが現代にいたら3Pを多く打っていただろうし。

◎動きながら判断する

フォックスは周囲の状況を常に判断しながら、ディフェンスが空くとすかさず切り込みます。それも切り込みつつ周囲の状況も見ているからパスも出せる。ただ、判断の初めは「自分は止まっている状態」からのことが多いです。それに比べるとヤングの方は、自分自身が動きながら周囲の変化をみて判断していきます。パスアングルを自分で調整しているともいえる。

「動きながら判断する」のは非常に難しいわけですが、時にスピードがない選手だからこそ、そのスキルが上がっていくこともあります。自分が抜き切る前提がない。ヤングがフローターを多用するのもそんな理由で、ディフェンスに囲まれたわ終わりだから、その前にシュートを打ちたい。

ハンドラーとして動き回る中でスキを探しているヤング。身体能力はないけど大きな1歩目で置き去りにするのも上手く、緩急とテクニックの使いどころが秀逸。

ということで、ヤングのプレーはこの部分を切り取っていくと、ワンマンプレーの象徴のような動き方をしています。フォックスやマレーが周囲にプレーをやらせるのとはだいぶ違って、あくまでも自らが得点を狙いに行くプレーによって構築されています。

本日の題名は「王道」ですが、王道っていうか「王様な道」を歩んでいるようなヤングのプレーぶりです。FG41.8%、EFG48%と効率的ではない個人技の王様プレーをしているようなヤングなのでした。

ストックトンのように動きながらパスコースを作っていくが、低い得点効率ながら王様のようなプレーをしている

矛盾しているようですが、それだけボールキープしながらプレーを構築しているということであり、得点力が重要になってきている現代っぽい変化なのでした。だから新しい時代の王道になるのかもしれません。

◎ツーメンゲームとヤング

しかし、ヤングはアシストも多いため、王様な雰囲気はありつつも「プレーが非効率」かといわれるとそんなイメージはありません。ホークスのオフェンスレーティング107.5は悪い数字ですが、若手ばかりで構築されたチームであり、ルーキーが王様なチームなのだからなんやかんや言っても仕方ない。

〇ホークスのアリウープ 105本

1試合に1本以上というアリウープの多いチームであるホークス。ヤングからの鮮やかで緩やかなパスからダンクをぶちかますのがパターンになっています。トランジションが多い事情もあってホークスのゴール下アテンプトはリーグ4位。インサイドにスペースを作るのが上手いので高い機能性を維持しています。

ヤングは長くボールを持ってプレーチョイスすることも多いですが、ゴール下で空いた選手を見逃さずにパスを通していくことが出来ます。

〇ホークスの3P 37.0本(3位)

そこには3Pを増やしてストレッチさせている事情もあります。3P打ちまくりのホークスは、センター陣も全員打ちます。まさかアレックス・レンまで打つようになるとは予想外でした。

そんな前提を頭に入れながらヤングのハイライトを見てみましょう。

まずロングパスの上手さが目立ちます。バックコートでプレッシャーを受けていないときに余裕をもって味方をみつけてパスを通しています。次にインサイドへの合わせの上手さも出てきます。一方でキックアウト系のパスは少なく、右45度から左サイドへ振っていくパスは得意ってくらいです。

〇ヤングのパスからシュート数
3P 9.5本
2P 10.9本

ただ数字的には3Pを打たせるシーンも多くなっています。10.9本ある2Pですが、シュート成功率が52%と低く、決定的なパスばかりを通せているわけでもありません。ハイライトでこれだけダンクが出てくることを考えると、それ以外が全然決まらないじゃないかって感じかも。

パスの受け手はジョン・コリンズが3.9本のシュートを打っており、圧倒的に多く、そのうち2.9本が2Pとなっています。この人は別格の魔力を持っているので、ヤングの能力と評価してよいのかどうかは難しい。

〇ヤングのパスからシュート数
コリンズ 3.9本
ハーター 2.8本
デッドモン2.6本
プリンス 2.3本
レン   2.2本

まぁ当然のようにスターター陣が並びます。続くのもビンス・カーターなので割と全員にパスを振り分けているイメージのヤングです。ただし、3P0.9本のコリンズを除けば全体的に3Pが多くなります。デッドモンとレンが入っていますがビッグマンでも3Pを打たせるホークスらしさといえばらしさです。

ヤングの好みとしては自分がボールを持って動くことでディフェンスを動かしスキを作るとともに、味方へのパスアングルを作り上げること。あまりにもあっさりとフリーにしてしまっている構図は、アングルを変えられたことでマークを見失い守り切れなくなっている形です。

そして、もうひとつはキックアウトよりもビッグマンとのツーメンゲームから3Pを打たせることが多いこと。ウエストブルック、レブロン、ハーデンとの違いはここで、突破力を使ってディフェンスをひきつけ、空いた選手へのキックアウトパスをコーナーいっぱいまで振っていく3人と違い、ヤングの場合は2人のコンビプレーで打たせるのが得意技。

ただし、そのツーメンゲームの相手がシチュエーションによってバラバラなのも特徴。相棒的なコリンズを除けば、カーターの老獪なスクリーンを利用することも、レンのありがちなスクリーンを利用することも、あるいはハーターとのポジションチェンジを利用することも。

〇ホークスのピック&ロール ロールマンプレー
平均9.2点(4位)
得点率 1.18(4位)

〇ヤングのピック&ロール ハンドラー
平均7.8点(9位)
得点率 0.81

ピック&ロールを使ったホークスのオフェンスはハンドラーであるヤングが打つパターンは得点可能性が非常に低く効率的ではないのですが、ヤングのパスを受けたロールマンがシュートに行くと一気にリーグトップレベルの高確率になります。コリンズ、デッドモン、レンというメンバーながら高確率なわけですから、それだけパスの質が高いということ。

王様なヤングですが、王様が打つのではなく家来たちに打ってもらった方が効果的なわけで、それも理解した上でのプレーだと勝手に解釈しています。

◎現代版ストックトン&マローン

ツーメンゲームが得意
動きながらパスアングルを作る

ますますストックトンに思えてきたトレ・ヤング。自分の細かい動きでアングルを作ってしまう能力と現代的なストレッチするチームにおいてコンビプレーで崩していくのが得意。

そこに相棒として登場するジョン・コリンズ。平均19.5点を奪ったコリンズですが「ヤングがいるから得点がとれた」って言われそうだし、1人だけインサイドにスペースを作ってフィニッシュしてしまうコリンズの存在は「コリンズがいるからアシストが増えた」ともいわれそうです。

冒頭に戻ると、今回のテーマは「エース格のPG」になっていますが、コリンズの方が得点を取っているわけで、この表現は正しくない気がしてきます。

ジョーダンと同時代といえど、まだまだインサイドプレーが優勢だった時代ではマローンの方がエースですが、もしも2人が現代にいたならストックトンがエースになっていたという予想。ストレッチ時代らしく3Pを多く打ち、ファールを貰ってフリースローで得点することで自然と得点バランスは変わってくるし。

まだまだシュートの正確性を欠いているヤングですが、これで3Pの安定感が出てくると得点も大きく伸びてくるでしょう。フローターだってもうちょっと確率を上げたい。現時点ではプレースタイルそのものに課題はなく、その正確性を高めるのがオフの課題となっています。

優れた現代的プレースタイルと得点面で低い完成度

期待値は大きいけれど、まだまだ再建途中のホークスをどんな形で勝てるチームに変えていくのか。変えられなければ王道路線とはいえないわけで、大いなる可能性がストックトン&マローンのような教科書に載る王道プレーになっていくことを楽しみにしています。

◎おまけのディアンジェロ

ツーメンゲームの上手さがあるヤングに対して、ディアンジェロの方は5人での連携に優れいてるタイプです。視野の広さと読みにくいパスタイミングでハーデン型のプレーをしているのでした。以下、割愛。

次世代PGの王道路線~トレ・ヤング~” への7件のフィードバック

  1. ストックトンとかヤングみたいな選手が厄介なのは、常に”ヘジテーション”状態だからですよね。フォックスの時もありましたが、常にルックアップ。それを可能にする技術とフィジカル。

    幸いにも、同年ドラフトによきライバルがいるので、バッチバチに意識して競い合ってもらいたいです。

    あ、ドンチじゃなくて、ブルース・ブラウン。

    1. ブルース君にとっては、手玉にとられることがあってリベンジしないといけませんね。

  2. ヤングはスティーブ・ナッシュに憧れてるらしいので彼並みのオフェンス効率化け物になって欲しいです。あとディフェンスはないなりに頑張って欲しいです…

    1. 家の庭みたいなところで、ナッシュとトレーニングしていましたね。
      ナッシュやヤングのもつ細かいテクニックって気になります。

  3. ストックトンとは目から鱗。
    確かに驚きのポイントはアシストと得点のバランスですね。一年目でしかも弱小にいながらにして、得点効率以外は王道オールドスクール。笑
    ストックトンは殆ど右手1本でパスをしてて、そのバリエーションが多く全てドンピシャ。
    これを磨くには相方の存在も大事。やっぱり選手の成長や方向性は周りの選手で左右されます。
    個人的にはバスケは関係性を構築出来る選手か好み。
    そっちにいけばいいなと思いますね。

    1. ホークスがドラフトで集めている選手は、単に能力が高いのではなく、スペースを使う意識の高い選手が多いので、ヤングの能力が活かされやすいんだよ思います。レディッシュはどうなんだろうか。

      1. レディッシュから漂うベンマクレモア感ありますからねぇ。
        でもRJとザイオンに合わせるのは大変だったろうなと。そのへんはヤングは上手いし真価を発揮するかもしれませんね。

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