ロディオン・クルッツと4つのプレー

渡邊雄太の話

サマーリーグを観ながら思い出した事。それは1年前にネッツに参加した渡邊雄太。予想を上回るプレーを披露し、プレータイムを増やしただけではなく、次第に役割を増やしていきました。

「これは契約があるかも」と思っている裏側でネッツはドラフト指名選手との契約を進めていきました。1巡目指名だったムサだけでなく、2巡目のクルッツとも契約したことでネッツのロスター枠は埋まっていったのでした。

当時のネッツの動きは非常にわかりやすく「サイズのある運具の補強」に動いており、それまでのスモールラインナップ路線は継続したいけど、サイズというか、複数のポジションをこなせるウイングを求めていたのでした。

渡邊雄太の特徴はサイズに似合わないオールラウンドな能力なわけですが、それらは見方を変えれば「特定の武器が足りない」という捉え方も出来ます。今のNBAではマッチアップのズレを作ることで優位性をもたらす形はよくあり、

複数のポジションをこなすオールラウンド性
特定の役割で優位性を発揮する専門性

という二面性が求められているとも言えます。前者はディフェンス面に強く、後者はオフェンス面に強く、3&Dみたいなイメージもあります。ただまぁ言い換えれば、

どんなポジションを任されても、自分の武器を発揮する

エースクラスの選手じゃない限りは、多くの事が出来るのではなくてオールラウンドにこなしながらも、強い武器を持つことが生き残るのには大切だと思います。

ラプターズの話はこういう選手を集めなかったという側面と、「どんな役割もこなす」ようなオールラウンド性を求めたわけで色々と違うわけですが、基本的にはバスケ選手としての総合的な能力+自分が持つ強みってのは変わらないと思います。

前回の馬場雄大の話も同じで、何かしらの武器がないといけないってことでした。1年前のサマーリーグに話を戻すと、素晴らしいオールラウンド性を発揮した渡邊でしたが、2WAY契約を即座に提示はされなかったのか、グリズリーズを選ぶことに。

ちなみに渡邊がネッツでプレータイムを得られた理由に、ムサとクルッツのビザがなかなか得られずサマーリーグでプレーさせることが出来なかった事情もありました。いずれにしてもプレーしていないドラフト指名選手を優先されてしまった形だったのでした。

そんなこととディアンジェロ絡みでハイライトを観ていた事から、思い出したように書くことになったクルッツ君のことが今回のテーマにして、NBAプレイヤーとは何かを考えさせられるのでした。

◉2軍だったらしいクルッツ

というのも、スペイン事情に詳しい「とうみん」さんに教えていただいたのはクルッツはドラフト前に所属していたバルサではスターターどころかベンチにも座れない2軍の選手だったとのこと。レベルの高いバルサのスターターならNBAクラスなのは間違いないのですが、さすがに2軍の選手となるとちょっとね。

1年間の成長があるとはいえ、スペインで試合に出る事すら出来ないレベルの選手がNBAにやってきて、結果的にはプレーオフチームのスターターになったわけです。

なかなかに不思議な現象にして、何故そんなことが起こったのかを考えるのが今回のテーマにして、長かった前段にも関係するものになります。

ドラフト上位5人が大活躍の中で、2巡目からスターターに成り上がったのはクルッツとピストンズのブルース・ブラウンでしたが、ミッチェル・ロビンソン(ニックス)とジェイレン・ブロンソン(マブス)もいて、ちょっと豊作になりそうな2018年の2巡目。

〇ロディオン・クルッツ
63試合 20.5分
8.5点 FG45.0% 3P31.5%
3.9リバウンド 0.8アシスト
0.7スティール 0.4ブロック

開幕からケガ人に悩まされたネッツで13試合目のウィザーズ戦からスターターになると、最終的に46試合でスターターとなったクルッツ。

そんなクルッツですが、数字的には悪くないけど特筆すべきものもありません。3Pの確率もそんなに良くないわけで、仕事人みたいなイメージもありません。2巡目で紹介した他の3人が特定の武器で活躍しているのに比べると割とオールラウンドなクルッツです。

6-9とサイズ的にはPFくらいあり、プレー的にはポストアップとかはないのでSF。線が細いのでインサイドには弱そうですが、意外と嫌がらずにゴール下でも戦っています。PGみたいなハンドリングスキルはないし、広い視野もないけど時に良いパスも出す。オールラウンドな能力があるタイプです。なので割と渡邊雄太と被るんだよね。

いずれにしても、バルサの2軍だった選手がNBAで早々にスターターの座を勝ち取り、しかもプレーオフにまで進むという現象が起きたのは何故だったのか。それをハイライトを観ながら考えるわけです。

◉4つのプレー

そんなクルッツのハイライトを観ると、つまりハイライトに出てくるようなプレーを見ると、ほぼ4つに分類できます。

①ワイドに開いて、マークが来ないから3P
②ワイドに開くパターンからのバックドアカット
③vsビッグマンでスピード差を活かしてのドライブ
④伸びやかなスティールからの速攻

この4つに分類できる前提でハイライトを観ると面白いと思います。

どうでしょうか。大体4パターンでしょ。そしてクルッツ君はドラフト指名はされるけどバルサで2軍だっただけあって、多彩なわけではないけど身体能力がある感じです。何がクルッツを特別にしているのか。

・特別に3Pが上手いわけではない

まぁ普通にフリーになって打って決めているだけです。それもほぼキャッチ&シュートなので31.5%という確率も含めて、優れたシューターって事はなく、ディアンジェロとディンウィディーのパスからチャンスを貰っているだけかな。

・フィニッシュはダンクかレイアップ

ドライブしても多彩なシュートスキルなんてものもありません。ハイライトってこともあるのですが、ドライブしたらダンクかレイアップなわけです。別に上手くはないよね。
ただ身体能力の高さがあって、スピードがあった上でそのまま踏み切ってダンクに行けるのは凄いです。このスピードが直線的な速さであり、ストライドがもたらす優位性って感じだから追いつけないのだと思います。

・抜群に上手いバックドアカット

一方でクルッツを特別にしているのは抜群に上手いバックドアカットです。「ディアンジェロとネッツ」で書いた通りネッツの素晴らしさは『再現性あるオフェンス』なのですが、クルッツのバックドアもその1つ。これが3Pやスクリーンプレーと合わさってのバックドアなのですが、さすがにネッツの中でもクルッツほどのバックドアを作れる選手はいません。

これがバルサ時代にもあった特徴なのかは知りませんが、オフボールでも仕事が出来る戦術性をネッツが評価したのだとしたらスカウティングの良さが光ります。パサーやポジションとの関係性が必要なプレーなのでバルサでは出来ずにNBAで出来た理由もあります。なお、ディアンジェロいなくなって大丈夫なのか?というポイントでもあります。

・ブラインドから飛び出すパスカット

そして実はディフェンスも似たような側面がある気がします。パスカットしているのですが、パサーから見えない位置に事前に移動していたりしてさ。

攻守に「読みが良い」というよりは「死角を使うのが上手い」ような気がします。だから、バルサ時代にバックドアそのものはしていなくても、死角利用するプレーをしていたのならば、そこを評価した可能性があるわけです。

◉4つのプレー以外を求める

バルサの2軍がNBAでスターターというのは驚きですが、「オールラウンドに動ける良さ+特定のプレーでの輝く武器」の視点では後者における特定のプレー、この場合はオフボールでの動き方、がNBAで成功した理由です。

この良さはチームを選びます。3Pの確率が高くないからロケッツでは輝かなかったし、スクリーンやパスに特徴があるわけでもないからウォリアーズでも苦しかっただろうね。だからバルサでも同じような理由で起用するほどのプレー水準になかったと判断されても仕方ないと思います。バルサのプレースタイルは知らないけど。

1人のロールプレイヤーとして輝くための要素を持っていたといえるクルッツ。特にバックドアの上手さはオフェンスパターンを大きく増やしてくれました。特定の役割で質の高いプレーをしていたといえます。

そんなクルッツですが、スターターとして活躍したにも関わらず今年のサマーリーグにも出場してきました。

〇サマーリーグのクルッツ
24.5分 
9.3点 FG46% 
5.3リバウンド 2.3アシスト
1.7スティール

NBAのスタータークラスにも関わらず、圧倒出来なかったサマーリーグとなりました。これまでの活躍ぶりからすると、がっかりなスタッツです。

ネッツはクルッツだけでなく、まさかのジャレット・アレンまで出場し、なんとシーズンのスターター2人がいる上にムサなんかもいて、1年前のサマーリーグとは大違いの豪華メンバーでした。

その一方で相変わらず細かいスクリーンこそあるものの、1年前に比べるとやけに個人技が目立ったサマーリーグでもありました。おそらくシーズン中と違って、クルッツやアレンに「普段の役割を超えたプレー」を求めたサマーリーグだったのだと予想されます。

負けたウルブズ戦のプレー集は、アレンとの連携こそ見せたものの前述のシーズンハイライトとはプレーの内容から大きく違いました。

そしてシーズン中には出てこなかった弱点にして、必要とされなかったプレーでの未熟さも存分に発揮しています。

・1on1を仕掛けるパターン不足
・フィニッシュパターン不足

スピードで勝負できるクルッツですが、それはキャッチ&シュートのフェイクからは活きるけど。ボールを止めた状態では「仕掛け」も「フィニッシュ」もパターンが少なく、サマーリーグでさえも止められてしまったわけです。

また得意のバックドアも封じられたというか、自分がボールを持つ形では使えないのは明らかでしたし、パサーというかディフェンスの注目を集めてくれるエースも足りませんでした。

つまりクルッツは4つのプレーを有効に使えたシーズンに比べると、それ以外のプレーが求められると相手のレベルが落ちるサマーリーグでも苦しんだわけです。

◉まとめ

サイズと身体能力があり、そしてオフボールで仕事が出来るクルッツは「オールラウンドなプレーが出来る」選手だったわけですが、だからといって「総合力が高い」わけではありません。

管理人がお気に入りのネッツなわけですが、チームとして戦術的に優れているし、選手個人も戦い方としての戦術性を持っているわけですが、その中身は決して小難しいものではなく

自分の得意なプレーを表現する

ことが徹底されているし、そのためにフロアバランスをとったり、細かいプレーコールを理解することでフリーになる瞬間を理解する事にも繋がっていました。全てを自由にやらせたらサマーリーグのレベルでも表現するのが難しいってことです。

クルッツの登場は「4つのプレー」における質の高さによって非常に楽しませてもらいましたが、再現性あるプレーしかしていないので、きっとまだまだ未熟なのだろうということも感じさせてくれていました。サマーリーグでジャレット・アレンほどのプレーが出来なかったのは、まだまだクルッツも自分を理解しきれていないということかな。

3Pの確率やドライブからのフィニッシュパターンなど、日々改善していく要素が大きいので今後も楽しみですが、いつの日か主役としてのプレーが出来るようになるのかもちょっと気になります。

デュラントからスキルを盗めるのか、プレータイムがなくなって伸びなくなるのか。

これまではキャロル、RHJ、ダドリー、グラハムと自身とはタイプが違うウイングが多かったわけですが、オフの補強によってプリンス、テンプル、チャンドラーとポジション的にはライバルが増えてきただけに、これまで以上に自分のプレーに磨きをかける必要もあります。

そしてバックドアカットに的確なパスが出てくるのかどうか。

https://youtu.be/hMObkBqWZYc

ロディオン・クルッツと4つのプレー” への1件のフィードバック

  1. 以前にここか、他のサイトで「渡邊とクルッツは似ている」と発言したのですが、細かく言えば似て非なる存在。
    ただ実績という面ではクルッツが一歩リードしているかな、と思います。
    しかし身体能力とサイズ、フィニッシュ力ではクルッツに分があり、渡邊は追い掛けるべき存在かと。ディフェンス力は渡邊も引けをとらず、存在感を示すことができるので、同じようなプレイをできるようになってほしいですね。
    しかし、昨年のサマーリーグで渡邊を起用して、ムサとクルッツをドラフトしているのはネッツの強かさと戦略を感じます。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA