現代NBA入門「チームの再建」

サンダーさんが迷走しているので、入門講座です。

昨年のオフに少し書いてみたNBA入門。管理人もNBAの細かいルールには詳しくないので調べるのに時間がかかります。でも、それよりも簡単に行けそうなテーマが「チームの再建」。この2年の中で行われた再建事情について例示してみる企画です。

というのも、サンダーが意味不明なディールを始めました。管理人はウエストブルックの放出にも、サンダーの再建モードにも大反対だったりします。特に前者については例えばウォリアーズが今オフにクレイ・トンプソンの残留に失敗していたとしたら

カリーとドレイモンドだけじゃ優勝は無理だ。だからカリーをトレードして指名権を大量ゲットしよう!

なんてことを言いだしたら、ウォリアーズファンじゃなくてもブーイングするはず。カリー、リラード、ウエストブルックは絶対にトレードしてはいけない現代では貴重な選手です。それはビジネスの中に潜む義理人情の世界かもしれないけれど大切なんだ。後の祭り。

それを実行したのが昨年のデローザンということになりますが、仮に「ドライなビジネス」に徹して正当化するにしても、「優勝のためにデローザンを手放す」ラプターズとは事情が大きく違います。また、同じくグリフィンをトレードしたクリッパーズですが、あちらも明確な再建モードというよりは「トレードすることでチームを強化しながら再建する」姿勢が出ているものでした。

それに対して今回のサンダーは、ポール・ジョージのトレード志願から「なんか方針はないけど、もう再建に切り替えよう」みたいな突発的で衝動的な再建モードであり、計画性が皆無です。ドノバン続投に反対なわけですが、逆に再建するならばドノバンと契約延長くらいの覚悟も必要です。

これらのことを踏まえながら、ここ数年の再建チームが行ってきたことを見直してみることにしましょう。まずサンダーが「再建したい」と衝動的な行動をする中で、注目されるのがドラフト指名権の多さです。

〇1巡目指名権
2020年 サンダー※トップ20のみ
      ナゲッツ※プロテクトあり
2021年 サンダー※ロケッツが上位なら交換
      ヒート
2022年 サンダー※トップ14のみ
      クリッパーズ
2023年 サンダー※クリッパーズが上位なら交換
      ヒート※プロテクトあり
2024年 サンダー
      クリッパーズ
      ロケッツ
2025年 サンダー※クリッパーズが上位なら交換
2026年 サンダー
      クリッパーズ
      ロケッツ

ということで、非常に充実した指名権があります。ちなみにコメントで「ダブルドラフトの年」というのがありましたが、現在のNBAでは「高卒+1年」がドラフトの最低年齢になっています。大学で1年過ごすことから通称「ワン&ダン」ルールですが、これは労使交渉で決まっている内容となり、見直しが検討されています。
なお、理由については結構複雑だったりしますが、過去に高卒ドラフトがなくなった理由が「リーグレベルの低下」「高卒選手のフィジカル問題」だったのですが、それを復活させる理由が「NCAAの不正問題」という全く違う側面だったりします。

現在NBAではNCAAを経由せず、下部リーグで育てる方式も検討しているので、そこは大きな変換点になるかもしれません。(NBAのロスター外で契約させることになるとかね)
いずれにしても高卒ドラフトが2022年に復活するというのが一般的な意見であり、この年が「ワン&ダン」の大学1年生と高卒選手、つまり2年間分の優秀な選手が集まる予想があります。そこで上位指名権を持っているのは重要ということです。

そんな指名権問題はさておき、今のサンダーは「指名権が多くあれば再建が出来る」という考え方になっています。(本当にそうなのかはわかりませんが、一般的な見方としてです)しかし、本当に指名権が多いことが再建になるのかってのが今回のテーマです。

①シクサーズ

ここ最近の再建チームで最大の成功を収めかけているのが、シクサーズになります。「収めかけている」ってのは評価しにくいからです。いうまでもなく

ベン・シモンズとエンビードという中核をドラフト指名

がシクサーズの成功例なのですが、実はこれって問題がいくつかありました。現状だけを見れば成功しているのですが、その中身はいくら何でもって感じです。まず第一にシクサーズの場合は「チームを低迷させる期間が、いくら何でも長すぎる」ってことでした。

2010-11シーズンに41勝41敗だったシクサーズは、そこから35勝、34勝、19勝、18勝、10勝、28勝と低迷を続け、シモンズとエンビードが揃った17-18シーズンに突如として52勝に到達しました。「長すぎる低迷」の中で「大当たりのドラフト」によって復活したわけです。ただ、この「大当たり」も結構な問題があります。

〇シクサーズの指名選手
2010年2位 エバン・ターナー
2011年16位 ブセヴィッチ
2013年6位 ノエル
     11位 マイケル・カーター・ウィリアムス(新人王)
2014年3位 エンビード
     12位 サリッチ
2015年3位 オカフォー
2016年1位 シモンズ(新人王)
     26位 コルクマズ
2017年1位 フルツ

要するに当てたといいつつ、外した案件が多かったり、かといって大きく外したわけではなく、活用するのが下手くそだったりします。シモンズとエンビードですべてが精算されたわけですが、単に時間がかかっただけでなく、失敗も多かったってことです。

ちなみにシモンズとエンビードは指名したとして、それ以外の指名選手について、各年で指名順位を考えた時に獲得できた選手っていうのは

2013年 CJマカラム、アンテトクンポ
2014年 ヌルキッチ、ゲーリー・ハリス
2015年 ポルジンギス、ブッカー
2016年 シアカム
2017年 テイタム、フォックス、ミッチェルほか

こんな感じです。まぁ別にシクサーズを責めるってわけではなくて、いろんなチームが失敗しているのでスカウトの力どうこうではありません。逆にエンビードを当てたのは偉いわけだし。シモンズはどのチームでも選ぶ1位だから関係ないよ。

ただ言えるのは指名権があることだけでは成功は導けないし、獲得した選手をうまくチームに組み込めないと意味がないわけです。そしてシクサーズに代表される

超大物をドラフトで当てる

というのは運にも左右されるし、それだけのスカウト力が必要ってことです。「ドラフトで超大物をゲットして再建する」ってのは、そんな簡単な話ではないわけだ。なお、この戦略で大成功したチームの代表格がサンダーだったりもします。

2007年2位 デュラント
2008年4位 ウエストブルック
2009年3位 ハーデン

伝説的な3年連続MVP指名をしているサンダーは、この3年後にはファイナルまで進みました。3年目ハーデン、4年目ウエストブルック、5年目デュラントでファイナルってのはサンダー時代の到来を感じさせたものの、そこで優勝できなかったことが現在のサンダーの全てみたいなものです。

ということで、サンダーが目指しているのはシクサーズ型の可能性は非常に高い気もします。だって、過去の自分たちに似ているし、それでいて自分たちはもっと成功しているわけだし。やっぱりこの成功にはあらがえないって感じもあります。

とりあえずドラフトでMVPになる選手を指名してからじゃないと再建は始まらない

ストロングスタイルっぽい発想でもあります。チームの核はそれだけ重大ってことです。まぁそうなると

じゃあなんでウエストブルックを放出するんだ!

という話にも戻ってきてしまうのでした。

②ティンバーウルブズ

同じく上位指名を得て立て直したのがウルブズ。ウィギンズとタウンズという2年連続1位かつ新人王コンビを揃えました。まぁそれが成長していないとかは別にして、再建方法としては非常にわかりやすいです。

そして、シクサーズとウルブズには共通点があります。それはジミー・バトラーの獲得。どちらもトレードで手に入れたわけですが、

【ウルブズ】
ラヴィーン、ダン、指名権(マルカネン)
【シクサーズ】
コビントン、サリッチ、他

つまりはそれぞれ「2人の中心となる若手」以外を代償にして、ベテランスターを加えたわけです。いずれにしても、共通した要素は

中核となる有望株を手に入れるまで負けて上位指名権を目指す
中核となる若手以外はトレードの駒として利用する

こんな構図が成立します。最近2シーズンではブルズがわざと負けまくっていますが、上位指名権には繋がっていなかったりします。ニックスも似たような要素はありますが、欲しい選手が違うので。

時間はかかるけど、チーム生え抜きのスーパースターを手に入れるためにチョイスする再建方法になります。でも、ウルブズとシクサーズには違う共通点もあります。それは上位指名の特徴でもありますが、「欲しい選手よりも、優秀な選手を指名する」という形。

それでもウルブズはまだダン、ラヴィーン、ウィギンズ、タウンズとポジションごとに揃えていきましたが、シクサーズに至っては前述のとおりビッグマンだらけだったり、シモンズを指名した翌年にフルツを獲得しに行きました。(一応、当時はシモンズがSF扱いだったけど)

元々トップ3くらいだとポジション関係なく、その年の優秀な選手を選ぶ傾向があり、逆に欲しいポジションの選手が決まっていて上位指名権を持っているとトレードで指名順位を落としたりします。

例:2017セルティックス 1位 → 3位テイタム
  2018ホークス 3位 → 5位トレ・ヤング
  2019ペリカンズ 4位 → 8位、17位

従ってウルブズやシクサーズのように上位指名権でスター候補を待つ形だと、チーム事情よりも選手個人の可能性を重視しがちなので傾向として

× 戦術に合った選手
〇 スター候補を獲得してから戦術を再構成

こんな流れになり、このブログ的には批判されることが多くなります。ポジションバランスを成立させていたウルブズは迷走しまくっていますが、シクサーズの方が上手くいっている理由は弱い時からパッシングオフェンスを積み重ねてきたことにもあります。まぁその後は戦術をころころ変動させているので、偶然だと思いますが。

◎続く

今回はNBA入門っていうくらいなので、こんな内容になる予定じゃなかったのですが、次回に続きます。

予定はブルズ、ホークス、レイカーズ、ウルブズ、ネッツ、クリッパーズあたりを触れていく感じです。それぞれの再建方法に触れることで、何が正解なのかを考えるわけですが、当然正解なんてありません。

結論は「デュラントかレナードを獲得できるかどうか」になっている気がするので、その捉え方次第で正解が変わってきちゃうんだ。今のところネッツとクリッパーズが正解なわけですが、それは次回に繋がります。

シクサーズとウルブズの再建方法は王道パターンです。しかし、それには時間がかかるし、戦術時代のNBAでは少しばかり苦しい要素も感じさせてくれています。個人が成長しなければいけないことは間違いなく、それに加えてチーム戦術も整備する必要があります。

唯一のメリットは時間がかかった分だけ、放出しても良い有望株も抱えているのでトレードがスムーズという事。豊作の2017年ドラフト1位に対して、大きな対価を得られずとも問題になっていないシクサーズの現状がそれを示しています。

ただ、シクサーズとウルブズにはホームタウンの違いがあり、スモールマーケットのウルブズの方がFA戦線で失敗しやすいなんてこともあります。今も結局はドラフト路線に戻っているわけですし。

続く。

現代NBA入門「チームの再建」” への9件のフィードバック

  1. むしろウエストブルックだけ残して彼中心のチームでロールプレイヤーをマイナーチェンジしていく路線を継続させたほうが未来が無かったような気がしますけどね
    大刷新・完全解体でいいんじゃないでしょうか。
    とりあえず指名権を掻き集めるっていうような一連のムーブが迷走とは思いませんね。
    大量に集めた指名権をどう使うかに関してはまだ計画しきれていないとは思いますけど。

    お互い合意の上でのトレードなのでウエストブルック放出はしょうがないのかなって…ファン心理としては寂しい限りですけど…

    再建するならドノバン続投覚悟ってとこはよくわからないです、どういう意図でしょうか…?

    1. ドノバンの契約は残り1年。再建に舵を切るのに、残り1年のHCって意味がないわけです。次のチームを考えるならば、それに適したHCを連れてくるべき。
      その一方で今のサンダーにはドノバンを交代させるべきだけど、ドノバンの育成力っていうのもひとつの魅力です。若手を集めるならドノバンに3年くらい鍛えさせても良いわけです。
      どっちにしても残り1年ってのは意味がないということで。

    1. 了解です。バリバリ書きますので、その前に管理人にPS4をプレゼントしてください。そうしないとレーティングがわからないよ。

  2. フランチャイズ原理主義の自分はただそれだけでラスのトレード反対の老害野郎なんですが。
    まぁそれは置いといて、各フランチャイズ又はそこのオーナー毎の考えが大きいですよね。例えば LALの様なチームは巨人軍と同じで優勝以外は失敗的な宿命がある、でもSACなら優勝なんてまず毎年狙うことは無くて10年に一度狙えたらオッケーで取り合えずフランチャイズプレーヤーが欲しい。そんでもってPO出てプチ黄金期作れればそれで良しみたいな。BOSやPHIの様な歴史のあるチームはどっかで勝負に出ないといけないとか。
    その文脈で語ってもやっぱりラスはおらが町のスターなんで出してはいけないってなるんですがね。安定した人気が大事じゃないかなと。球団目線では。
    当然ラスが出たかったのもあってそうしたのかとも思います。
    ここで感じるのは選手のドライな感じですね。KDにせよPG13にせよラスにせよファンからは愛されていたのに。KDに関しては古い選手や昔からのファンは否定的で現役選手からはさほど言われない辺りにそのギャップも感じました。
    で、再建なんですがそのゴールはどこなんやという話ですよね。OKCはフランチャイズの規模を考えてもラスの物語を完結させてから動いても良かったと思うんですがね。何がしたいのかよく解らない。
    DALの様にフランチャイズの伝統も優勝の歴史も得られた元ドアマットもいるので、これこそ目指して欲しいんですけども。成功したにも関わらずキューバンはナッシュの放出を悔やんでいて、もう二度とそういうことはしないと言ってますけども。ああ、オーナーが大事なんだなやっぱり笑。って DALを見て反面教師としてNYKを見て思うしだいです。

  3. 以前もコメントさせていただきましたが、色んな意味で田舎がスターを手放すリスクはとても大きいと思います

    極論を言えば、このブログの趣旨とはずれますが、ビジネス的にはスター不在でpoギリギリ出れるよりは、poに出れなくてもスターがいる方が良いような気もします。まあ、ドラフトでスター当てちゃるぜ!って事なのかもしれませんけども
    あと、他の方もおっしゃってますが、
    「再建」のゴール、成功失敗の基準はどこかにもよると思います
    全てのチームが優勝以外は失敗と考えているとは思いません

  4. ウェストブルックの放出から精神が終わってるオクラホマシティーにわかです。そのうちヒューストンにわかになりそうです。

    サンダーの動きって実際よくわかんないです。ジョージの退団から急に動いたってのはすごく感じるし、ドラフトめちゃくちゃ取ってるけど、何が欲しいとか、どんなチームにしたいか、とかというかジョージに変わって誰か狙うとか、なかったのかな、と。ウェストブルック体制でそこまで勝てないかと言われるとちょっと疑問です。つーかコリソンをずっと取っといてウェストブルックは出すのか、とか。まあウェストブルックの希望もあったみたいだし仕方ないんすが。

    これでサンダーは本当に全て白紙だなと思います。ドラフト見てから考える!って感じなのか。でもデュラントやハーデン、ウェストブルック級を当てるって難しいですよね。それを狙うにしても、そもそもサンダーのカルチャーそのものだったウェストブルックがいなければ、それはもうサンダーじゃないなとすら考えてしまいます。本当に白紙。悲しい。

  5. ウエストブルックってジョーダンやコービーのように正真正銘のレガシーになれる可能性があったと僕は思うんですよね。それはプレースタイルが、という意味ではなく引退してもバッシュのシグネイチャーが出されていることのように影響力を与え続けられる選手という意味です。彼の持っているその能力、個人成績、エネルギー量、闘争心、鼻っ柱の強さ、プレーの力強さ、カリスマ性、人気などはバスケを知る人も知らない人も関係なく圧倒できるものです。その上で彼らのようになるためにあと必要なことは生え抜きのエースとしてOKCに複数回の優勝をもたらすことだったと思います。
    NBAで優勝すること、しかも複数回となるは本当に本当に難しいことですし、重い。しかしウエストブルックがOKCで絶対的な顔、エースとしてそれをやってのけた暁にはそれは単なるOKCの優勝ではなく、OKCにとってもリーグとってもそれ以上の価値を創造できるチャンスでした。チームが優勝を目指すのは当たり前です。しかし、優勝以上の本物のレガシーを作り出すためには、スタッツ以上の価値を生み出す選手が必要です。ウエストブルックはそれを持っていると僕は思いますし、そんな選手を生え抜きで獲得するということはもしかしたら、優勝するよりももっと難しいことかもしれません。単に優勝することの更にその上の価値を創造できるチャンスが不意になってしまったのが僕はどうにも残念でなりません。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA