最先端バックスと異端に進むナゲッツ

ロケッツを添えて

本日の主役は躍進した両チーム。それぞれプレーオフで力尽きたとはいえ、その戦いぶりは称賛に値し、来シーズン以降も期待を持たせてくれます。

記事を読む前に考えてください。来シーズンより伸びそうなのはどちらのチームか。そして優勝の可能性があるのは、つまりプレーオフで勝てそうなチームはどちらか。

時の運にも左右されるので正解はありませんが、だからこそ、それぞれの意見がある「勝てるチームの定義」にも繋がります。今回はそういうお話。

◉最先端のバックス

 「3Pとゴール下」 

現代オフェンスの中核的な要素は、多かれ少なかれ各チームが意識している部分です。実は大切なのは3Pではなくて「ゴール下」なわけで、そのためにプレーを構築し、そのためにストレッチする重要性が高まっています。

バックスはそれを徹底的に煮詰めました。「どの試合も同じことしていて退屈」というのがバックスへの誉め言葉だったのですが、本当に延々と同じことを繰り返せる強さを手に入れました。「ストレッチして、インサイドを攻略する」の方法論はいくつかあります。 

〇3P 24.7本(25位)→38.2本(2位) 

〇ゴール下  28.8本(7位)→34.1本(2位)

いうまでもなくバックスにとって重要なのはMVPヤニスです。つまり「ゴール下が重要」なわけですが、バックスの場合は「ヤニスが蹂躙するスペース」が重要でした。

〇ヤニスのFG 52.9%→57.8%

〇ヤニスのゴール下 699本→769本

欠場が4試合多かったけどゴール下を増やし、FG%を大きく向上させたヤニス。そこはスペースさえ渡せば、正確に言えば「ヘルプが間に合わない」状況を作ってしまえばよいわけです。

バックスの練習場には3Pラインよりも遠い位置にサークルがあり、全員にポジショニングを徹底させました。3Pラインではヘルプが間に合ってしまうという意味かもしれません。

◉ストレッチ5 

そして、もう1人重要なのがブルック・ロペスの存在です。 

「ストレッチ5」
「全員が3P」 

こちらも最先端な選手をそろえています。サイズがある砲台のロペスはパスの逃げ場としても機能し、止めたくても止められない高さの3Pがあります。

ロペスが3Pを打つようになったのはケニー・アトキンソンに魔改造された2シーズン前ですが、レイカーズを経て、確率面だけでなくドライブ技術が大きく向上した気がします。

〇ロペスのドライブ
2.1回 得点率94.7% 

スピードのないロペスですが、リングへ一直線に進むドライブは、1歩の大きさでグイっと進むので、見た目のスピードとは違って止めにくく、さらにかつての得意技ステップワークも混じります。得点率はヤニスで70.9%なので、かなり高いことがわかります。※1回のドライブで1点を奪える確率。フリースロー含む。

あくまでも3Pフェイク&ドライブなので、特別なスキルを発揮しているわけではありませんが、単純なドライブ能力は例えばカズンズのようなドライブの上手いセンターよりも上の気がします。 

ドライブの上手いセンターはハンドリングスキルがあるので、逆に一直線にリングに向かわない巧みさがあります。ロペスの場合は「巧みじゃないからこそ早い」気がするし、余計なことをするとミスになってしまうから一直線なのでした。  

◉トランジション

現代で重要なもう1つの要素もまたバックス躍進の理由です。特に「メリットを享受して、デメリットを避ける」のが得意技にして、徹底した事。

〇試合のペース 97.1(20位)→103.6(5位)

強気にガンガン打っていく3Pで試合のペースを大幅に上げました。現代的な戦略にして前任HCジェイソン・キッドのオフェンスがシステム重視でペースが遅かった事情もあります。現代バージョンにブラッシュアップしたわけですが、単に早くなっただけではありません。

〇速攻での得点 17.7(6位)
〇速攻での失点 11.0(1位)

「トランジションディフェンス」 

バックスが徹底してきた、もうひとつがこれ。自分たちだけが「側溝での得点」という利益をむさぼれるように、徹底的にトランジションディフェンスをします。絶対に許さないんだという意思を感じるハリーバック。

これは「早く戻る」だけでなく「先に戻る」ってことでもあります。自分たちがシュートを打った段階で撤退する人数が多いわけです。ロペスとかスピードはないけど、早めに戻るわけだ。 得失点差+6.7なわけだから、これだけで勝率を大きく上げたことになります。

〇オフェンスリバウンド 9.3(25位)

その分オフェンスリバウンドは弱かったバックス。ヤニスと3Pによるロングリバウンド+ハードワーク徹底があったけど、トランジションディフェンスが優先さ。

サイズのある選手を並べたバックスが、現代NBAらしい要素を徹底してきたのが躍進に繋がりました。目新しさはないのですが、これだけ【徹底】していることが選手の迷いを生み出さなかったし、多少のビハインドでたじろぐこともなくなりました。

ただし、プレーオフでは見事にラプターズに破壊されました。何を破壊されたかっていうと「ヤニスのゴール下」です。これが波紋を呼んでしまいます。 

「結局、3Pでは勝利を奪えない」

みたいな論者がでてくるやつです。でも正確には「ゴール下」を止められるのが痛かったんです。3Pを決めていればゴール下で優位性を持てるのかって話にもなりますが、カリーなら3P決めちゃうよね。ロケッツは外したね(昨シーズン) 

3Pをカリークラスに決まることを信じ切るわけにはいかないので、ここでレナードのようなショートレンジとファールドローの重要性が登場します。そこは今回の趣旨ではないのですが、いずれにしても 

最先端の戦術徹底はチームが強くなるためには極めて重要でも、最先端の要素だけでは優勝するのが難しい 

これが現状です。そして、これらはすべてロケッツに当てはまります。スーパーだった昨シーズンのロケッツの強さは、プレーオフの局面で(クリス・ポールの離脱は別にして)3Pを決められなくて砕け散りました。「ゲーム7の3Qに1本でも決まっていれば・・・」というたらればはありますが、他の攻撃方法はハーデンアタックしかなかったわけです。 

で、カーメロを・・・・・・・・・以下、省略。  なお、この記事はウエストブルックのトレードが決まる2週間くらい前に書いています。

◉ナゲッツの最先端 

「3P」
「ストレッチ5」
「トランジション」 

オフェンス面だけをみれば、ナゲッツは昨シーズンの時点で完璧でした。素晴らしいシューターたちを並べ、そこにストレッチ5として超高確率のヨキッチがポイントセンターとしてチームをリードしています。だからディフェンス面を除けば、ナゲッツもまた最先端なチームの気がしてきます。  

ところが、そんなナゲッツがウエスト2位まで躍進した理由は、これらの要素を否定していくようなものでした。

『最先端を否定するナゲッツ』それはつまり、

『最先端を超えに行くナゲッツ』

ということなのか。ナゲッツはなかなかに不可思議なチームになってきました。

◉トランジションとシュートチャンス

〇試合のペース 99.2(6位)→97.8(15位)→98.5(25位)

ナゲッツは時代に逆行しました。年々試合のペースが順位として落としています。これは相手がいることなので今シーズンはオフェンスリバウンド後のショットクロックが短くなったことで、全体のペースが上がっていますが、それでもナゲッツの上げ幅は小さくなっています。 

〇ショットクロック別アテンプト  
18秒まで  16.3本→13.9本
18~15秒 14.2本→13.8本
15~7秒  35.9本→43.9本
7秒以下   15.3本→17.2本

明らかにショットクロックを使って打つようになります。ただ、この数字はちょっとめんどくさくて、今シーズンからオフェンスリバウンド後が14秒リセットになったので、全体的に15秒以上で打つシュートが減る要素が大きかったです。

とはいえ、リーグのルールと各チームの戦略として試合のペースを上げる取り組みが急激に進む中で、殆どペースを上げず、オフェンスにおいて時間を使うようになったナゲッツ。元々は超積極的なシューティングチームだったのに。

ところで、この変化はまたもロケッツと同じ道を歩んでいます。ダントーニ就任で「ラン&ガン」となったロケッツでしたが、それは1年だけの話。2年目から一気にペースダウンしました。その理由は「何度もオフェンスをやり直す」を徹底してきたことです。変な状態でシュートを打たないことを選んだともいえます。 

ロケッツが遅くなる理由はわかりやすいです。「アイソレーションの徹底」によって、オフェンスのスタートも遅くなります。ハーデンのスタミナ浪費を抑えることになっているかもしれない。速攻が出ないときは大きくスローダウンし、ゆっくりとしたボールコントロールになるのです。 

ところがナゲッツは、ここでもまた異端 

〇パス数   309.3(7位)
※ロケッツは246で29位

「パス数が多くて、オフェンスに時間がかかる」というのは、弱いチームのやつです。普通は「シュートチャンスをなかなか作れない」ってことです。でもナゲッツはそうではない。ウエスト2位ってだけでなくオフェンス力もあります。

〇オフェンスレーティング 112.1(7位)

多くのチームがオフェンス力の向上を求めてペースを上げている中で、ペースを落としながら高いオフェンス力を維持しているナゲッツ。単なるトランジションに解決策を求めなかった強みがここにあります。

最先端を徹底するバックスに対して、最先端から独自路線を進むナゲッツ。今回の主役はナゲッツなのですが、比較対象としてバックスが登場しただけだったりします。

◉「戦術の熟成」とは何か

2週間溜めていた理由は、単にこのナゲッツ版を書いていなかったからです。

ナゲッツはパスゲームと3Pを組み合わせた戦術をヨキッチが台頭してから進めてきました。それは当初は強気なシュートが多かったものの、3年目となって強気なだけではなく、「イヤらしい選択肢」が非常に多くなってきました。

試合の中で「なんで打たないのか」みたいなシーンが結構あり、そこでリードを奪えないのだけど、ビハインドになることも少なく、そして途中で一気に強気に打って3連続3Pみたいなことも頻繁に起こります。

この流れを狙ってやっているのかは難しいのですが、「ラッシュ」と「リスクヘッジ」の時間がある戦術は、ディフェンス力でも勝てるようになったチームに無駄な失点を減らすことにも繋がりました。若い選手の成長、それもビーズリーやモリスといったニューフェイスの活躍で躍進した事情と戦術が熟成されている事情と。

冒頭の話に戻ると「プレーオフで勝つ」ってことは、ストロングスタイルでは難しく、ラプターズは柔軟に変化して勝利を積み重ねました。しかも「圧倒」ではなくて「ギリギリ」の勝利を積み重ねていった。

ひとつの現代的戦術を徹底するバックス

ベースにある現代的戦術を超えようとするナゲッツ

両者の違いは1年目と3年目ってことです。バックスがいきなりナゲッツになるのはムリがあったので初年度としては徹底できたことを褒めるべきであり、3年目に変化が混じっているナゲッツもまた褒めるべき。

バックスの課題は勝利をもたらした戦術にどうやって変化を混じらせるか

ナゲッツの課題はもう一度現代的なコンセプトに戻って圧倒的な勝ち方を増やせるか

躍進した両チームはそれぞれ大型補強とは無縁でしたが、それゆえに「戦術の熟成」が必要になるし、現代NBAでは選手よりも戦術の進化が大切です。そこに個の能力が加われば強いけど、戦術がなければ問題外になるぜ。

東西のNo.1候補には熱かったオフシーズンを「無意味」とすら評してしまうくらいの来シーズンを期待しているのでした。

最先端バックスと異端に進むナゲッツ” への13件のフィードバック

  1. この派手なオフに…

    ジェレミーグラントを加えてるとこがまたヤラシイですね笑

  2. ナゲッツはビーズリーが出場時間を求めて移籍しちゃうんじゃないかとちょっと心配。
    POの経験を経て、特にハリスに期待。ディフェンス。

    バックスはプログドンの移籍をどう誤魔化せるか。カナトンとディビチェンゾに結構期待している。ブレッドソーでどこかのPGとれないのかな。ニックスのペイトンください。

    1. ビーズリーの件はマレーの契約もあって怪しいですが、ミルサップを減額出来れば大丈夫な気もします。

  3. 時代の超真逆に行ってるPHIは果たして成功するのか。宜しければ記事にして欲しいです。

  4. バックスの課題は今後いかに変化を取り入れるかですが、下手に変化させてしまったせいで大きく崩れてしまったチームも多々あると思います。
    whynotさんはどのような変化を取り入れていくべきだと思いますか?

    1. ヤニスとのピック&ロールをもう少し増やすことと、そこから両コーナーの活用ですかね。
      カナートンが良かったのはカットプレーでしたし、それを有効にしたい。

      あとはムービングで打てるタイプのシューターが欲しいです。
      それは「シューター」が欲しいのではなくて、オフボールの動きでディフェンスをずらしてくれる選手ですね。

      総じてヤニスのインサイドは、それが一番強力なので、それ以外で崩す形が必要だと思っています。

  5. ナゲッツがスローテンポなパッシングで成功しているのはやはりマローンがポポさん門下生というのと、バックコートの守備力の高さとそしてヨキッチのスローながら圧倒的なパスとシュート力ゆえ。
    ヨキッチのトップからのバウンズパスなんてご飯3杯いけますね。
    ナゲッツがファイナルにたどり着くにはヨキッチじゃなくてバックコートの成長。マレーは時に勝負強さを見せましたがまだまだ安定感に欠けましたね。

    バックスはとにもかくにもヤニスのジョーダン化待ち。ジョーダンになってしまったレナードに負けた彼はその相手をじっくり研究した事でしょう。

    1. いや、ナゲッツのバックコート、というかマレーは酷いもんですぜ。バートンもペリメーターが優れているわけではないし。
      それでもどうやって守るのかを検討した結果じゃないかと。

      マローンはベテランばかり重用していて失敗したけど、若手でベテランみたいなプレーをし始めたので面白いものです。

  6. 確かにこの2チームの違いは成熟度ですねー。ロケッツは昨シーズンいい成熟したけど、今年は旬が過ぎて腐っちゃった感…

    来シーズンはまた違う味付けでお料理してくるタレント構成なので、美味しくなるかなー。不安のが大きいかなー。

    この2チームの話に戻りますが、本当に今年のFAは静かな両チームでしだが、『現状維持が最高の補強』ってシーズンもありますからね。フロント含めて、『徹底』した両チームですね。(ブロングトンをキープ出来なかった所だけが悔やまれるバックスってのが個人的な思い。サラリー的に厳しかったのかなー)

    西も東もエースが動きに動いて『ガラガラポン状態』な来シーズンなので、特に変わらなかったこの2チーム

    ジャズペイサーズのように半分動いたチーム

    FAで動きまくった大型チーム

    3パターンがどのようにかみ合い・かみ合わないのか、楽しみっす(シーズン中の修正力大事)

    1. まぁやっぱりクリッパーズはともかく、レイカーズやネッツは戦術的な疑問点が大きいですからね。
      スパーズの方がよっぽど的確で積み上げている印象です。

      FAに参加しないから、ビッグマーケットじゃないからこそ上手いチームって増えてきました。
      ウォリアーズが弱体化したのに、変に動いたチームが多かったですね。

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