ポポビッチは帰ってくる
「楽しいシーズンだった」
とポポビッチが言ったとか、言わないとか。スパーズファンにとってストレスの溜まるシーズンだった一方で、もしもポポビッチの立場だったら「楽しかった」と評するのは理解できたりします。
勝利を宿命づけられたHC、なんて幻想もありますが、ビッグ3時代から続くポポビッチ流のバスケは1つの区切りを迎え、ちょっとポポビッチとは思えない振れ方をした新しいシーズンでした。それが
大逆転のデローザン
なのですが、デローザン本人は有名なミドルレンジシューターであり、昨シーズンからキックアウトパスを有効に使うようになった非常にスパーズっぽい選手でありつつも、かなりPGっぽい仕事をこなしました。
そして「3Pは好きじゃない」とか言いながら、揃えに揃えたシューター達。ガソルはトレード放出しちゃったけど、各ポジションにシューターになれる選手を揃えたのだから、新しい船出を迎えました。
つまりポポビッチ的には「新しいことにチャレンジした」シーズンであり、「チャレンジしながらも勝利も求める」ことを実践してきたのだから苦労しただろうし、やりがいもあったのではないでしょうか。
不安定なディフェンスってのもひとつのチャレンジだったと思います。いくつかのパターンを試しながら、どれが現状のメンバーにあった守り方なのか。結果が残った形を続けるのではなく、柔軟に対応できるだけの準備を整えていった気がします。
新しい発見が様々あったと思われるシーズンは48勝を達成し、ナゲッツとのゲーム7まで進み、あと一歩のところまで行きました。もちろん「結果を残した」といって良いか微妙ですが、ビッグ3にレナードまでいなくなり、チームを1から作り直しつつチャレンジしてきての結果なので、悪くなかったとも言えます。
強いて言うならば、ウイングにルディ・ゲイってのが「頼りにはなるけど、若手がいたら伸びしろもあったのにね」というくらいです。
まずはポポビッチが楽しかったであろう視点について触れてみましょう。
◉地味地味な若手たち
〇デリック・ホワイト
9.9点
FG48%
3.9アシスト
〇ブリン・フォーブス
11.8点
3P43%
〇ヤコブ・パートル
5.5点
FG65%
5.3リバウンド
誰もがスターの卵とは言い難い選手ながら、それぞれの持ち味を存分に活かしてくれました。活かさせてくれました。
高いシュート能力を発揮したフォーブスとリバウンドと走力専門みたいなパートルは試合によってプレータイムがバラバラでしたが、それこそチャレンジされているものであり、試合ごとに相手に合わせた対応をポポビッチがしてきたということ。楽しそう。
そしてホワイトはサマーリーグから緩急自在のゲームメイクでNBAレベルで通用する「判断力の巧みさ」を存分に発揮してくれました。ひょっとするとネクスト・ジノビリ的な存在になるかもしれません。
攻守において巧みなプレーをしているホワイトはスキルや能力的には物足りない部分はあるけれど、いわゆるIQの高さで補っています。これがレベルを上げると「必要な時に必要なプレーが出来る」ジノビリになるのですが、サイズと経験値が違うので、もちろん違う形になりますよと。
ただし、シュート力に課題のあるホワイトだし、ディフェンス力が怪しいフォーブスだし、か弱いパートルだし。
みんな見事な長所と短所を兼ね備えているわけで、これらを上手く使うのは大変だし、だけど上手くいくと噛み合いまくるし。ミルズ、ベリネリ、バータンズというシューター陣も含めて信用できるような出来ないような。
強かったり弱かったりする今シーズンのスパーズでしたが、いろいろな組み合わせでも、それぞれの長所をしっかりと感じさせてくれたのだから、楽しいってのも理解できるわけです。
そしてメインユニットのデローザン、オルドリッジ、フォーブス、ホワイト、ゲイの5人でプレーしたのが388分。ちなみにシーズン全体だと3961分なので1割にも満たない。
その次がゲイ→パートルで187分と非常に少なくなっています。ケガ人もあるので一概には言えませんが、本当に細かく様々な組み合わせを使ってきたし、それでも個人の長所がわかるのだから。
なんだかポポビッチのイメージに騙されそうですが、極めて新しいチームでした。
なお、昨シーズンは一番長いユニットで189分のみ。100分以上が3つのユニットしかないし、今シーズンよりも遥かに大変だったので、これでもポポビッチ的には「やりやすかった」シーズンかもしれません。
そして『若手たちの成長』という新しい楽しみもあります。Gリーグからよじ登ってきたフォーブスとホワイトを有効活用していくのは、ルーキーからは育てるスパーズっぽいかもね。
◉デローザンとオルドリッジ
しかし、ファンが今シーズンを「物足りない」と感じたのであれば、中核となる2人の問題でしょう。割とエースに頼る部分があるチームで、そこまで威力を発揮できなかった2人。
〇ラマーカス・オルドリッジ
得点 21.3
FG 52%
リバウンド 9.2
〇デマー・デローザン
得点 21.2
FG 48%
リバウンド 5.3
アシスト 6.2
ターンオーバー 2.6
まぁでも数字を見るとなかなか良い数字です。特にFG%が高いのはエースとして厳しいマークをされながら、適切にパスを出していたことが伺えます。
デローザンは数字的にもアシスト/ターンオーバー率も2を超え、得点とアシスト数を考えればトップPGクラスになっています。
それでも物足りなく映ったのは2つの理由から。
1つは勝負所で自分で得点するのではなく、それまでと同じく「ディフェンスが寄ってきたらパスを出す」スパーズらしいプレーに徹していたから。「それを決めてくれよ」とファンが考えるのは当然だし、ラプターズでレナードが個人で決めてしまうのを考えると唸ってしまいます。
でも本当の問題はデローザンとオルドリッジの間で行われるパス交換の効率性が低いことだと捉えています。2人のエースを中心にシューターを揃えてきたチーム構成は、2人のエース同士の関係性が輝くことを想定していました。
それぞれ20点オーバーだし、コンビとして結果を残している部分があるのだけど、思ったよりも2人の間には強固なコンビプレーはありませんでした。
〇デローザンからオルドリッジ
パス数 9.0
アシスト 1.6
FG 46%
デローザンの総アシスト数を考慮すると寂しい数字ですし、オルドリッジのFG%を考えると効率が悪いです。それもプレーオフになるとパス数が7.0まで落ちました。
勝負所でこそ輝いてほしかった「コンビプレー」がどうにも機能しきれていないことがスパーズの物足りなさに繋がっています。本当にここがコンビとして機能すれば、もっと強かったんじゃないかと。
かつてのトニー・パーカー&ティム・ダンカンを想定していたこともあり、ちょっと寂しかったエースコンビ。でも、過去のデータ観てみたら、パーカーからダンカンのアシストって、もっと遥かに効率悪いのね。パス数は多い。
まぁ確かにホワイトを筆頭に多くの選手が活躍する中で善戦したプレーオフだけど、デローザンとオルドリッジが「獅子奮迅の大活躍してくれればなぁ」というのも事実だよね。
そんな個の強さを求めないようなスパーズだし、でもプレーオフは個の強さだろっていう矛盾もあったりしてさ。チームとしての強さを失いつつ、レナードで勝ちに行くラプターズの現状と比較すると「プレーオフの正しさはどっちか」はまぁ。。。。
◉意外な補強をしよう
試行錯誤を繰り返してきた今シーズンもまた3月4月で14勝5敗とチームを整えてきました。9つの勝ち越しは48勝34敗という結果において重要でした。良いHCは試合の中での采配よりもシーズンの中での成長だよねっていう。
若手も抱える中で「来シーズンはより強くなって帰ってくる」と言いたいところですが、悩んでしまうのもポポビッチスパーズ。
ホワイトはシュート力を、フォーブスはディフェンス力をそれぞれ磨いてきてもらいましょう。パートルは何だろうね。基本的なゴール下ステップかな。
デジョンテ・マレーも帰ってくる来シーズンですが、ちょっとガード過多だし、組み合わせがよくわかりません。デローザンをSF長時間起用にするのはビッグラインナップを使ってきたスパーズ的にはどうなのか。
全チームに共通するのが「デュラント欲しい」ですが、ポジション的にはゲイの役割を引き継げる若手の選手が欲しい。誰が良いのか難しいですが、まぁ1人の候補がアレなんですよね。うん。
Rui Hachimura
都合が良すぎる話ですが、レナード的なプレーを学んでいくのも良い話です。指名順位的にも八村は揺れているので、残っている可能性もあるし、小トレードで指名順位アップもあるよね。
まぁそれは指名されてから考えるとして、ホワイト、フォーブス、マレー、そしてロニー・ウォーカーとやっぱりガード過多な若手たちをどうしていくのか。個人的にはメトゥは面白い存在だと思っています。
結局はポポビッチがそれなりにチーム状況を整えてくるわけですし、今シーズンのこの状況を楽しめる70歳なんだから、思い切って未知の若手ウイングを探してみましょう。その方が長い目戦で楽しめるじゃないか。
ちなみにこの若手たちが全員下位指名ってこともあって、サラリーが安く、ガソル放出もしたのでスパーズにはそれなりにFAに出ていく余裕もあります。ランディ・ホリス・ジェファーソンとか面白そうだけどね。
意外にもポポビッチが再契約したのでスパーズのこの形はまだまだ続きます。今シーズン最大の特徴は「ディフェンスが怪しい」選手を起用していったこと。それはこれまでにない形でした。
そう考えると、「えっこんな選手を獲得するの」くらいの意外なチョイスをしてほしい気もします。ケリー・ウーブレとかね。ポポビッチとケンカしそうじゃん。アイザイア・トーマスはさすがにないかな。
ただチーム的には医療スタッフをはじめとして、改変も必要だと思います。賞味期限切れになる前に、ちょっとずつは進めていかないとね。
そう考えてもやっぱり必要なのは異分子かな。ベンチから登場して時に個人プレーで解決してしまうような。それって完全にテレンス・ロスだな。ペイサーズからサディアス・ヤングだと普通か。
昨オフは若手たちを求めるかと思いきや、大逆転のデローザンだったので、このオフもそんなものを求めていたりします。
◉書きそびれた事
最後にひとつ。記事として特集しようとして書きそびれた事。
スパーズは非常に摩訶不思議なローテーションをしていました。それはとっても新しくて、それでいて普通な気もしてくる戦い方。なお、同じようなことをしていたのはロイド・ピアースのホークス。
基本的にスターター→ベンチ→スターターで前後半それぞれが終わり、その中にはエースを混ぜ込んだりっていう工夫が各チームにあります。
だけど、スパーズは2Q序盤にデローザンとオルドリッジが並んで、終盤にはベンチに座っていたりしました。
スターター→ベンチ→スターター→ベンチ
を前半で回してしまう短時間ローテです。もともとベンチを信じるタイプのHCですが、さすがに相手のスターターに丸々ベンチをぶつけるってのは意外性がありました。
「元気な方が強い」っていうのが、この1週間の強烈なテーマですが、Gリーグから上がってきた若手だけでなく、ベテラン達だからこそ元気な状態で疲労のありそうな相手と戦わせていた感じもあるのでした。
そういう意味でも楽しかったスパーズ。それは「負けない戦術」を繰り返そうとしていた昨シーズンに比べると「勝つための戦術」に移行していく部分を強く感じたシーズンでした。
「不利なマッチアップを減らす」のではなく
「ストロングポイントで勝負する」
というポポビッチの空気感の違いもちょっとありました。多くのシューターを並べ「デローザンと仲間たち」にする時間帯もあるなど、危うい強さながら波にのっかったようなスパーズ。
不安定な部分が多くあったのは、そんなポポビッチの心変わりだったのだと想像しています。
ファンにとってストレスの溜まるシーズンだった一方で、もしもポポビッチの立場だったら「楽しかった」と評するのは理解できる。
そんなシーズンでした。今シーズンを機にストロングポイントを活かしつつバランスをとっていくのでしょうか。異分子を混ぜ込むことで変化しつつ勝利も求める。難しそうなミッションだからこそ楽しかったのでしょうね。
オルドとデローザンのコンビプレー、かなり期待してたんですけどね、全然なかった、、
来期はほぼメンツがかわらずですが、SFの補強はマストですよね。ゲイとも是非再契約してほしいところ。
ほんとにRui Hachimuraどんぴしゃだと思います、言い方悪いですがどうか落ちてきてくれ、、!
SFとしてはスキルとシュート力が、PFとしてはサイズとリバウンドが。
それぞれ足りない気もするので各チームのスカウトがどう判断するか次第では落ちてくるのでしょうね。
そしてスパーズはこの手のタイプ好きですから!
スタンリージョンソンはどうでしょう?今シーズン狙っていたというような話もありましたし
悪くないですが、マッチされない金額で契約する意味は感じなくて。
終始、的を射た内容で何だかスッキリしました。色々と不足しているロースターでこの結果を残せたのはある意味で感心しましたが、管理人さんも仰っていた通り、デローザン&オルドリッジには「物足りない」の一言に尽きます。この二人が来季も中核となるなら成績アップは難しいのではと感じています。
来季に向けてはウイングの補強は絶対に必要ですよね。博打するくらいのつもりで大化けの可能性ある選手を獲ってほしいです。FAではぜひヤングをと思っていましたが、RHJもいいですね。異分子的な選手もたしかに必要な気がします。でもウーブレは…。個人的には、ロスとシクサーズにいったシモンズがセットで来てくれたら嬉しいですね。
ロスとシモンズは良い感じなのですが、ロスならば、もう1人はインサイド側に欲しくなるかなぁ。
それはもう仰る通り。シモンズが帰ってきてくれたら嬉しいと思っただけです。
インサイドはドラフトでも獲ってほしいですがFAで狙うとしたら誰がいいでしょうか。サラリー的にもエドデイビスがいいんじゃないかと思うんですが。
正直ポポの契約延長が今シーズンのスパーズで一番驚きでした。3年契約だと思いますけど、この間にスパーズが本当に取り組まなければいけない課題はポポの後継を探すことだと思います。
後継者になる場合はチームを根底から切り替えるタイミングで作り直した方が。
なんか少しでも継続の気持ちがあると上手くいかない気がします。
長いことスパーズファンですが、
ポポヴィッチは今年で終わりだと思っていたので、続けると聞いて嬉しいですがそろそろ、、と言う気持ちもあります
勝利記録狙ってるのかな?なんて思ったり思わなかったり 3年というのも丁度いいし
シーズン序盤は散々でPOは厳しいと感じていた身からするとよくやった方だとは思いますが、物足りないと感じたのも事実です
ナゲッツには勝てたんじゃないかなと
ただどこをゴールとするかが難しい
優勝狙えるチームなんて元々ごく僅かですし
デローザンには3を打てるようになって欲しい 終盤はキックアウト対策されすぎて効果的ではなくなっていた印象です
タフなトップからのターンフェイダウェイは決まるのに、なぜあそこまで苦手としているのか、、
ウォーカーとマレー好きなので、期待しています
基本はとにかく育成のチームなので、FAにはあまり期待していません
デローザンについては、あのプレースタイルで勝負できる強みと、もっと強気にミドル選択して良いのではという疑問と。
ちょうどマカラムが3P以外で結果を残したのですが、引き出しの多さはデローザン より上でした。そこがナゲッツには苦しかった。
オルドリッジも含めて、この引き出しの数だけ問題があるかと。ホワイトは多いのでプレーオフで輝いたし!
スパーズについての記事、ありがとうございます。
ポポビッチ、管理人さんの仰られている通りHCとしてこのチームを見るならばまさしく「面白い」のだろうなと思いました。
来期はここにマレーが戻ってくるというのを考えるとこれまた考えようがあってさらに面白いのでしょうね。
個人的にはメトゥに目を付けているのが気になりました、笑
スパーズファンの中でも彼は大成するしないの意見の2極化が激しい選手ですのでそういう意味も込めて楽しみな選手です。
メトゥに何を求めるかですね。そんなに多くは求めていない管理人と、やっぱり多くを求めたくなるファンの違いかも。