理想に従うテリー・ストッツ

ブレイザーズのお話

◉オフェンスの指向性

現在のNBAではオフェンスシステムには大きく3つの傾向があると捉えています。3Pとかトランジションなんかは、すでに常識化されていますが、それをどんなシステムに組み込んでいくのか。

シューター型ボールムーブ
エース型スペーシング
ブラインドサイド利用のバランスアタック

一応、言葉として3つにしてみましたが、正しいとは言い難いので、そこは突っ込まないでください。ボールムーブを促してシューターを使っていくのは、いわゆるウォーリアーズ型ですが、これはそんなに流行していません。理由はスプラッシュブラザーズを超えるシューターコンビを集められないから。
スペーシングを何よりも意識し、エースが1on1で突破しやすくするのはロケッツやレブロンキャブス、そして今シーズンはアンテトクンポのバックスなんかで取り入れられています。言葉だけ見るとアイソレーション万歳ですが、ロケッツやバックスはエースがいなくても、しっかり機能するよね。キャブスはまぁ・・・。
3つ目はナゲッツとペリカンズのオフェンスを構築したクリス・フィンチ的なもので、ブラインドサイドのカットプレーを有効活用するためにポストアップからの展開と、インサイドのスペーシングをしっかりしています。これを他の2つと同列に出来るかは微妙なのですが、全員が得点することを考えたシステムになっています。

もっと誤解を恐れずに言い換えるなら
・複数人のエース格で構築
・1人のスーパーエースで構築
・全員アタックで構築
こんなイメージに近いです。5人それぞれに役割がある中では逆に動きを制限することも必要なわけで、どうやったらチームとして、そして個人として輝けるかを考えていくわけです。

ただし、別にこれで分類できるわけじゃないですし、ロケッツだってハーデンにクリス・ポール、ゴードンがいるし、全員アタックといいながらアンソニー・デイビスを活かしまくるわけだし。本人は活かされていると感じなかったかもしれませんが。

今回はブレイザーズの話になるわけですが、リラード&マカラムという2人のエースに得点を取らせるチームには、3&Dタイプのアミヌとハークレスを両ウイングに従えて、ポストアップタイプのヌルキッチがインサイドに陣取ります。
パスアウト先が用意されているけど、エース達が仕掛けて打っていくのがメイン。それはスーパーエースにやらせるロケッツの形に最も近く、ただしシューターにパスを供給できるリラードによって、少しだけウォーリアーズっぽくもありました。
ポストがいるし、ブロックされることが多いリラードとマカラムなのでドライブで詰めるよりもアウトサイドから打つほうが好みなチームです。そのために引き付けるヌルキッチみたいな。

いずれにしても、このスターター5人の強さはウエストの強豪にひけととらないどころか、昨シーズンもロケッツだってウォーリアーズだって大いに困らせました。
シーズン開幕前の予想でブレイザーズをプレーオフ圏外にする人もいましたが、あれだけの強さを発揮していたスターターを考えれば、それは現実的ではありません。
毎シーズンのように自分たちの強さを証明していながら、毎シーズンのように自分たちの強さを説明しなければならないリラードのインタビューにあるように、長い時間をかけて培ってきたチームの熟成度は高いものがあります。

一方でブレイザーズが強いのはスターターの話。ベンチに目を移すと、昨シーズン3人目のハンドラーだったネイピアーとビッグマンのエド・デイビスを失いました。特にデイビスについては、試合終盤にヌルキッチではなく機動力とリバウンドに優れたデイビスが選択されるケースが多かっただけに、ザック・コリンズの急成長がなければ苦しむことが予想され、そして急成長したとは言い難いくらいの現状です。

でも、昨シーズンだってブレイザーズは驚くべき変化をしていました。ディフェンスの悪いチームだったのに、逆にディフェンスのチームに仕立て上げ、控えの弱いチームだったのに開幕から鍛えていき、ガマンと成長と熟成を促せるテリー・ストッツによって少しずつ前に進み、ウエスト3位の座を手にしたのでした。

だから今シーズンだって変わるはずなんだ。そう信じたくなるのが理想主義者であり、現実的なアジャストメントが出来るHCの手腕でした。

そんなブレイザーズの今シーズンと昨シーズンのレーティングを確認してみましょう。

オフェンス 108.3→111.7
ディフェンス 105.5→109.1

弱かったディフェンスを改善させた昨シーズンに対して、落ちたオフェンス力の改善を図っているような今シーズンになっています。でもディフェンス力をキープできなかったから、あまり意味はないけどね。
ディフェンス力が落ちた理由には前述のエド・デイビスが離脱したことが響いています。

〇ヌルキッチのオン/オフコート
ディフェンスレーティング 105.2/109.3


ヌルキッチがいるかどうかで、大きく変動するのは控えのセンターがメイヤーズ・レナードしかおらず、単なるディフェンス力だけでなくリバウンドの獲得率が落ちるのが大きいのでした。編成の失敗だよね。

ディフェンス面は「ヌルキッチがいない時間」の構成で響いたエド・デイビスの放出ですが、オフェンス面では対戦相手次第では「機動力での合わせプレー」がイマイチなヌルキッチよりも、エド・デイビスの方が良かったので、その面でも響いています。
ウォーリアーズにしろロケッツにしろ、終盤にスモールラインナップを採用するように、エース達のオフェンス力を活かしたいときは、ビッグマンの役割を減らしているのが現代的な流れです。

エド・デイビスがいなくなったことは、ディフェンス面で大きく響きつつ、終盤のゲームクローズで不安材料が多かったのでした。

◉補強したシューター

ブレイザーズが補強したのはシューターでした。これはこれで不思議なのですが、エース2人を補う要素に選んだのは純粋な得点力になります。「最強セカンドユニットを作る」ってのが一つの目標だと予想しました。

でも、実はここにあった違う要素があるようなのがわかってきました。それは「エド・デイビスの不在をどうやって補うのか」にもつながってきます。
HCテリー・ストッツを「与えられた戦力の中でよくやっている」と書きますが、実際には「戦力」というよりは「条件」に近くて、手元にいるメンバーを組み合わせて、最終的に納得性のある戦術を構築しているのが印象的です。
昨シーズンは計算が成立しそうにない中でディフェンスとミドル合戦に勝機を見出したわけですが、リーグ全体のオフェンス力アップに対して今シーズンに用意した答えが非常に面白いのでした。

スペシャルなツーガードであるリラード&マカラムは揃ってブロックを食らう機会が多く、一方でアウトサイドシュートの上手さが光ります。ハンドラーとして個人で得点するパターンを持ちながら、シューター的な動きでも効果を発揮し、さらにリラードによるゲームメイクは試合を通して個人の好不調を考えながら、ディフェンスの狙いを外していき、最後は自分で決めきる「PGにしてエース」の理想的な存在でもあります。

ウイングには逆にやれることは限られているけど、3&Dとして強力なハークレスとアミヌが構えていて、ディフェンス面で小さいエースたちを支えながら、ストレッチ役にもリバウンダーにもなれるし、よく走ります。

センターはポストタイプのヌルキッチと機動力のエド・デイビスを相手によって使い分けていましたが、2人に共通するのはシュートの確実性がないことで、シュートが下手なのではなく、インサイドでの強引なプレーがよく外れるのでした。

そんなブレイザーズのオフェンスというか、攻守にわたる内容は「ミドルの打ち合いを制す」だととらえており、レイトスイッチを活用しながら相手にミドルなら打たせるディフェンスをし、自分たちはリラード&マカラムでより高確率に決めます。そこを抑えに来られたら、より効果的なハークレスとアミヌの3Pを使う算段でした。
この戦略は理にかなっていました。それこそデュラントとの打ち合いですら制することが出来るほどに。でも弱点としてはインサイドの2人に堅実性が欠けていることであり、しかもエド・デイビスがネッツに移籍してしまいました。

サラリーキャップがギリギリなブレイザーズのフロントは、まともな動きが何もできないのでした。
オフの補強はセス・カリーとニック・スタウスカス。シューターの補強はエバン・ターナーをPGとしたセカンドユニット構成だと予想していたわけですが、ちょっとずつ違いが出てきました。それは「リラード&マカラムはどんなタイプのスコアラーか?」という認識のズレなのかもしれません。

◉ヨキッチ+スプラッシュ

ブレイザーズが目指したっぽいのは2人のシューターにパスを合わせていくウォーリアーズスタイル。それをターナーPGでも実行したのですが、隠れて実行していたのがヌルキッチの役割変更でした。
これまでもポストでボールを貰い、起点的な役割をこなしていましたが、あくまでもスクリナーやハンドオフのためになっていましたが、今シーズンはもっと直接シュートに結びつくためのポスト役になっています。

〇ヌルキッチのパス数
40.3本→43.2本

〇ヌルキッチのパスからのシュート数
9.6本→12.6本


パスの本数は大きく変化していませんが、シュートに結びつくパスがかなり増えました。特に2Pが6.4本から8.7本に増えています。ヌルキッチのポストアタックやパスアウトを目的とするのではなく、パスのアングルを変える役割を担いバックドアプレーが増えました。

いわばヨキッチに近づいたヌルキッチ。アウトサイドシュートが上手いわけではないし、というかパスもそこまで上手くないのに、ヨキッチを目指すことになったのは何故なのか。それを予測するとこれまでの内容に辿り着きます。

・エースをシューターと位置付けた時に何が必要か
・終盤までヌルキッチをコートに残すには何が必要か

選手のタイプとしてはヨキッチとは少し違うヌルキッチですが、チーム事情を考えるとその役割を当てはめたかったと予想されます。現実味のない変化でしたし、今でもそこまで目立ちませんが、理想を考えると何をすべきなのかで折り合いをつけたようなテリー・ストッツ。だから理想主義者だと思うわけです。

〇シュート数の変化
ミドル 17.7本→15.7本
ゴール下 27.7本→31.8本

その効果ははっきり出ており、ミドルレンジが減ってゴールしたが増えました。インサイドへのカットプレーを増やすことで得点効率の向上を目指しました。起点となることが多かったリラード&マカラムをよりフィニッシャー的な位置づけにするためのヌルキッチの役割変更でした。

それはマカラムのプレーが不安定になることにもつながるデメリットもありましたが、ここにきて機能性が出てきました。

〇マカラムの被ブロック数
100(81試合)→51(51試合)

まぁ微妙ですがブロックされることは減りました。その前にターンオーバーというシーンはありますが、慣れないことをしてきた中では悪くない結果といえます。なお、リラードは同じくらいブロックされていますよ。

◉未解決事項

一方で時間がかかりながら、ここまで辿り着いたブレイザーズは失敗している部分もあります。その代表格がPGターナーの時間がしっくりこなかったこと。
リラード&マカラムをシューター的に位置づけるならば、PG的な役割を他の選手にする作戦でしたが、やっぱりリラードがボールを持ったほうがパスも出るし、自分で打つパターンを作りやすい一面がありました。ヌルキッチに任せるくらいで十分ってことかな。

そしてもう一つがハークレスの役割が浮き気味なこと。これまではパスアウトされたときに3Pでストレッチするのが役割でしたが、エース達のオフボールが増えると若干ジャマになり始めます。本人のプレーが悪いというよりは、システムの中で悩ましいということ。
結果的に同じSFでもよりシューター的なレイマンの方がオフェンスの流れがスムーズになっています。要するにPGリラードはあまり変えずに、シューター2人の方が機能しそうなわけです。

理想を追いながら現実的な落としどころを作っていくブレイザーズっぽさが感じられたのがこんな部分で、おそらくやりたかったことを少しずつ調整していったような現在のブレイザーズ。
まだまだバランスが良いとは言い切れず、どうするべきか迷っているのかもしれません。


理想に従うテリー・ストッツ” への13件のフィードバック

  1. 管理人さんの話を聞いた上で、ブレイザーズがロドニー・フッドを獲得したのは個人的には期待が持てるのですが、管理人さんはどうお考えになりますか?

    1. パサーとインサイドが足りない件をどうするのか気になります。SFはレイマンで我慢して、ナンスの方が良かったんじゃないかと思ってたりして。

  2. ロドニー・フッドがセカンドチームの強化につながると良いですね。
    プレイオフで番狂わせを起こしてほしい!

    こういった記事、コメントはあまり多くつかないですが、一番楽しみにしているタイプの記事です。面白い整理をいつもありがとうございます。

    1. この記事、現実の出来事をあまり上手く整理出来てないので個人的に駄作です。

  3. フッドは悪くないけど、今や11人目の選手でローテからも外れているスタウスカスに代えてですが、スターターで使わないので、レインマンと完全にポジションが被ることになります。好調のカリーとターナーは外さないので、シューター2人を使って、レナードかコリンズを外す布陣をとるのでしょうか?まあインサイドの2人はDもRも全く駄目なので、より確率の高いシューターでセカンドユニットは点取り合戦ですかね?ボールドウィンはサマーリーグの活躍から期待しましたが、全く使えませんでした。去年のスワニガンも同様でしたが。普通はサマーリーグである程度活躍するとシーズンも期待に応えてくれるのですが・・・
    ミロチッチも狙っているようです。おそらくは交換相手はコリンズとハークレスなのでしょうが、シューターばかり集めてインサイドは弱体し、ディフェンスも出来ないし、果たしてそれが上手く機能してくれるのでしょうか?

    1. フッドじゃなくてミロティッチなら理解出来ましたが、ここから更に選手を削るのはリスキー過ぎると思います。まだフリーのカーメロで良かった気が。

      分かりやすくディフェンス要員にハークレスを残した方が無難かな。PFばかりだったチームが今度はシューターばかりとGMが・・・

      1. フッドを獲るぐらいなら、NYKがバイアウトするだろうマシューズを呼び戻し、ミロチッチをコリンズ+スタウスカス+ドラフト指名権で獲得出来たら最高でした。

  4. ケンバモンクでいきたいCHAとしてはPORはロールモデルとして良いなと思って度々観戦していました
    CHAにはターナーではなくパーカーとバトュムがいるからエースをシューターにする時間が作れるけど、ヌルキッチの役割ができる選手はいないなぁ

    ブロックを食らう機会が多い欠点も込みで親近感を覚えていたので、そこを減らす工夫というのは興味深い内容でした。まあその前にスモール多用するのであまり関係ない話かもしれませんが
    モンクには出来るだけ早く、ケンバからファールをもらう技術を盗んで欲しい。現状だとただ避けてるだけなので、ブロックされるシーンが目立つような。そこがよくなれば本当に怖い選手になれると思います

    1. シーズン序盤は機能していた形でしたが、やっぱりパッシング能力ある選手が足りていないですね。
      パスの上手いウイングは多くのチームが欲しがり始めています。マービンとバトゥームではちょっと足りないような感じかな。
      マービンってブレイザーズにいそうな選手だし、バトゥームはいた選手だし、なんかわかります。

      モンクは時に凄い運動能力をみせますが、それだけではだめなことは、相棒だったフォックスが示していますし、オフにフォックスが何をしたのか気になります。

  5. はじめまして!面白い分析だったので拝見させて頂きました。ここにきてのカンター獲得発表がありましたがどうみますか?

    1. あまりに脆弱だったインサイドが強くなるので評価して良いのですが、ディフェンスのチームにディフェンスが怪しいカンターですし、ヌルキッチの同じようなタイプなので、本当は違うタイプが良かったです。
      でも贅沢いっちゃダメ!!

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