苦しくなったらサディアス・ヤング

今度のプレイヤー・オブ・ザ・ウィークはペイサーズのヤングだってさ。今シーズンのイーストはぶっ飛びすぎ!

シアカムが良い選手なのはみんな知っていたけど、若いだけに成長著しいし「若さで爆発して週間MVPもっていったぞ!」くらいの感覚

ブセヴィッチが良い選手でありエースなのはみんな知っていたけど、「チームに勝利をもたらしたエースへの評価で週間MVPもっていったぞ!」くらいの感覚

ヤングが良い選手なのはみんな知っていたけど、
でも、だからといって、いくらなんでも週間MVPになる要素があるとは思えなかったのに持って行ったのでした。

驚きの選出が続くイーストですが、その中でもかなりの衝撃的選出となったヤング。オラディポ、ターナー、サボニス、ボグダノビッチを差し置いての選出というのはペイサーズのチーム事情を考慮しても驚きです。
縁の下の力持ちキャラとしてファンには愛されるけど、相手から警戒されるような選手ではないのに一体何が起こったのか。

◉大活躍の1週間

今回の対象となっているのは3試合

vsバックス

アンテトクンポのマークマンとして、アンテトクンポがベンチに下がればヤングも下がり、アンテトクンポが交代で待っているとヤングも交代のコールをし、常に同時にコートに立ち続けました。

ベンチにいるときですら、ずーっとマークしていたかのようなヤングは完膚なきまでにアンテトクンポを止めてきました。
加えて試合を通じて5つのスティールはアンテトクンポを止めるだけでなく、周囲との連動性もシャットアウトです。

ただエースを止めただけでなく、オフェンスでも25点FG9/14、5オフェンスリバウンド、4アシストと大活躍。試合を決めたのはアンテトクンポを置き去りにしたヤングのダンクでした。個人で攻守に渡ってアンテトクンポを上回ったのです。

vsシクサーズ

続く試合でも26点の大暴れ。今度は高確率で決めたのではなくFG9/19と珍しく打ちまくることに。一方で5アシストも記録しています。ディフェンスでこの試合のメインターゲットはベン・シモンズ。パワーファイトで負けるわけにはいきません。

しかしキーになったのはそこではなく、エンビートと対峙したターナーのファールトラブル。これでサボニスの出番が増えただけでなく、オフェンス時にヤングがセンター役を務める機会が増え、その相手がエンビートに。

2試合続けてのビッグネームを相手にしての大活躍

になったのです。3Pシュートが得意じゃないビッグマンがエンビートと勝負するというのは苦しそうだったのに、直接マッチアップで15点を奪いシクサーズのディフェンスを崩壊させたのでした。

vsニックス

10点、FG5/9、6リバウンド、2アシスト

うん、まぁこれくらいが通常運転。アンテトクンポとエンビート相手に大活躍したのに、ニックスが相手になると普通に戻りチームは快勝しました。

前の2試合が出来すぎていただけでなく、チームが困らなかったのもポイント。自分から積極的に得点を奪うのではなく、必要なときに必要なプレーをするタイプだから、むしろチームが苦しんでいないならヤングは目立たないよね。

苦しくなったらサディアス・ヤングの出番

それがペイサーズの鉄則。誰もが活躍するチームにいる強者相手に輝くサポートプレイヤーなのです。ここにもまた目立たなくてもチームを良くする選手がいるのです。

そして強者を相手にしたことで目立ってしまったからこそのプレイヤー・オブ・ザ・ウィークでした。

◉相手を観る

サディアス・ヤングのオフェンスの特徴は何か。それを答えるのは難しい。

基本はコーナーでボールを待っているが、3P26%しか決まらないのでシューターの役割ではない。
基本はパスの中継役で30.3本のパスを出すが、ターナーやサボニスのようにオフェンスの組み立てに参加するわけではなく、自分よりプレータイムの短いサボニスの45.5本には遠く及ばない。

アウトサイドでボールを待ち、シュートが苦手なのだから、当然ドライブをするのが上手いが、その機会は1試合1.8回しかない。
コーナーにいたはずなのに、ポストアップは頻繁に行いチームで一番多い4.7回を記録しているがFG40.3%と意外に悪い

オフェンスリバウンドは強く平均2.1本はリーグ31位。そこからセカンドチャンス2.4点を奪うが、サボニスの3.3本には見劣りしてしまう。

何でも出来るヤングの役割は、その時々によって変わってきます。前述のシクサーズ戦ではハイポスト近辺からのプレーが目立ちますが、本来はここにポジショニングすることは少ない選手で、ターナー不在により役割を変更しているだけです。

ファールトラブルによって急遽担当したはずが26点の大爆発。実は引き出しの多さと戦術理解、何よりもディフェンスの状況把握に秀でているのがヤングの特徴になっています。
多彩なハンドリング技術やシュートスキルはなく、極めて一般的なスキルを使いながら、ディフェンスの狙いの逆を取ることが多く、バックス戦ではパスフェイクをすればゴール下のヘルプがいなくなることを理解して見事なドライブを決めています。
さらにアンテトクンポを活かすためにスモールラインナップを採用してきたバックスをみて、ポストアップを中心に8連続得点を生み出してしまいました。自分のマークマンが小さければポストアップを、大きければストレッチしてドライブを、相手の嫌がることをしっかりと出来るのがヤングの素晴らしさであり、困った時に重宝する理由でもあります。

今シーズン20点以上の試合は4つ全てに勝利しています。ヤングが大活躍すれば勝てるペイサーズ。
一方で6点以下の試合は5勝1敗。ヤングが殆ど活躍できなければ勝てるペイサーズ。関係あるのかないのか。

昨シーズンだと15点以上の試合はなんと19勝3敗。やっぱり活躍した方が良さそうだ。相手の弱い部分を的確につけるかどうか。ヤングが上手く対応出来るとペイサーズの勝機は広がる様子。

もう少し頑張って欲しいヤング。だけど、意識して得点を量産するには能力不足だし、がむしゃらに自分で得点するタイプではないのもヤングの良さ。パスすべき所でパスをする判断力がないと生き残れない。

この数字の怖いところはペイサーズのスターターで唯一シュートが上手くないヤングなので、相手からするともっとも捨てたい選手なのに、ヤングが得点するとペイサーズの勝率が高まってしまうこと。それも20点とかではなく15点レベルの話。
ヤングを守るのに力を割きたくないのに、しっかり守らないとディフェンスが崩れてしまう。対戦相手を楽にさせないのもヤングの良さ。

◉機動力系PF

よく考えたらヤングについてなんて知らないから、NBA入りから数字をみてみましょう。2007年ドラフト12位のヤングはデュラント、ホーフォード、コンリーらと同じ。
指名されたシクサーズでは1年目から平均22分で74試合に出場しており、それから12シーズンずっと長いプレータイムを誇っています。

FG50%を超えたのが6シーズン、リバウンドが5本を下回っているのはルーキーの時だけですが、7本を上回るのも2シーズンしかありません。

安定したスタッツを常時稼ぎ続けてきており、長期欠場もなく、好不調の波が少なく、HC達に信頼されている存在ですが、かといってアウトサイドシュートもなければ、特別リバウンドが強いわけでもない。スティールは多いけど、ブロックは少なく、強烈なインパクトを残して生き残るビッグマンっぽくありません。それこそマギーなんかとは真逆。

ペイサーズにやってきたのは16-17シーズン
この年のペイサーズはリーグ全体の高速化とオフェンス志向の流れに乗るべく、前年にルーキーながら活躍したマイルズ・ターナーをPFからセンターにコンバートし、ランニングゲームへの対応力を高めようとしました。

空いたPFとして迎え入れたのがヤング。つまりは機動力系PFとして白羽の矢が立っており、シュート力はなくてもトランジションの強さが特徴です。実際に後方からしっかりと追いかけて速攻に参加しており、1線の選手達は自分が止められても必ず後ろから走ってくる選手がいると信じています。

ここでもやっぱり困った時に後ろから来るヤングの存在が大きいわけです。ヤングの速攻での得点は1.7点程度。しかし、追いかけてきてくれる頼もしさがあるからこそペイサーズはペイサーズらしくなります。

現代的に言えば機動力系PFは重要なわけですが、そんなに重要ではなかったはずの2007年のドラフトにもかかわらず、現代型PFというのも面白い存在。「毎年成長して」と言いたいけれど、スタッツ的には大差ないし、3P上手くなっていないし。
しかし、戦術的に確実にフィットし続けているのがヤングの素晴らしさ。

加入した当初のペイサーズはオフェンスに舵を切ったわけですが、ポール・ジョージのトレードによって、再びディフェンス主体に切り替わりました。ランニングゲームのオフェンスを作るために加入したのに、ディフェンス主体でも常に重要な存在でい続けています。

そしてヤングは特別な能力がないようでいて、スピードもパワーもサイズもスキルも全てを持ち合わせている存在。ただどれも単独では特別ではないだけ。全てに対応する標準以上の性能をもっているのがヤング。

◉インテリ系ハッスル

とはいえ、ヤングを起用する真骨頂はディフェンス。ペイサーズにはターナーとサボニスという元々PFだった2人のセンターがいて、それぞれに魅力があり同時起用していきたいけれども、その存在が重要すぎて未来を背負うターナーとサボニスよりも長いプレータイムを得ています。

得失点差 +4.5

チーム最高の得失点差を持つヤングですが、ディフェンス面の数字の良さこそが最大の強みでプラスの数字を生み出します。もっとも、今シーズンはターナーとサボニスの数字も良いよ。ヤングのディフェンスレーティングは100.9。

自分で得点を量産するわけでもないし、リムプロテクトするわけでもないけど、ペリメーターでも守れる機動力とパワー負けしないインサイドの能力を持ち、時にアンテトクンポやレブロンといったモンスター系エースに対して個人ディフェンスで能力を発揮します。

どんな選手にもついていくことが出来るのが強みのエースキラー役を果たせますが、本当の強みはチームディフェンス。ヤングがいるだけでチームとして守れるようになります。

〇ディフレクション 95回(6位)
 
〇テイクチャージ 12回(4位)

チャージングを取る回数は1位に13回で3人がいて続くのがヤング。この両方の数字が高い選手はヤングくらいで、パスに触ってボールムーブを妨げるし、コースを先読みしてドライブも止めます。機動力系の真骨頂であると共に、オフェンスだけでなくディフェンスでも相手をしっかりとみて状況判断する能力に優れています。

見た目からはそんなインテリ系には思えないんだけどね。「ハッスルスタッツ」の通りハッスルしまくるのがヤングですが、単にハッスルしていると思わせて戦術理解や状況判断といったバスケIQの高さこそが武器なのかもしれません。

インテリ系ハッスルプレイヤー

これらの数字はサディアス・ヤングがチームにもたらす安定度を示してくれています。常にハッスルしてチームを助け、常にインテリな判断力で弱点を補う。鮮やかなプレーはなくても、的確で素早い判断力と、それを実行する身体能力。双方の重要性を感じさせる選手でもあります。

オラディポがいないと勝てなかったペイサーズは、オラディポがいなくても勝てるようになってきました。しかし、ヤングがいないと勝てなくなるかもしれないペイサーズ。苦しいときに登場するインテリ系ハッスルが珍しく2試合連続で大活躍してのプレイヤー・オブ・ザ・ウィークでした。

苦しくなったらサディアス・ヤング” への2件のフィードバック

  1. 正直、ペイサーズをはじめとする所属チームのファンくらいしか、ヤングが好選手であることは認識していないと思うのですが(私もペイサーズに来るまではほとんど知りませんでした)、味方にいるとこれほどありがたい存在はないですね。
    特に、ペイサーズの強みである速攻を生み出す平面ディフェンスの要として非常に助けられています。また、正直ターナーよりもポストプレーは上手いんじゃないかと思うくらいの確実性があるので、ミスマッチになっている時はポストアップを早くしろよ~という気持ちで画面を見ています。
    そんな彼がプレイヤー・オブ・ザ・ウィークを取って少しでも世に知られたのはとても嬉しいですね。初めてかと思ったら2回目でしたよ。シクサーズ時代の前回は何やったんだ……と思ったら、タンクしてた13-14シーズンのシクサーズで唯一の4連勝に貢献していたということのようです。

    1. シクサーズ時代は17点とっていたりと、意外と活躍していたり。1つひとつは大したプレーじゃないだけにペイサーズをたまに観ても重要ではないようにみえるけど、流れを考えると困った時に登場してますね。

      ファンだからこそ知る良い選手ってのは役に立つ選手ですし。

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