スーパー2WAY契約 アロンゾ・トリアー

ドラフト指名されるのは僅かに60名。そこに残れなかったルーキーの話

渡邊雄太はドラフト指名されず、サマーリーグはネッツの一員としてプレーし、グリズリーズの2WAY契約を勝ち取り、プレシーズンゲームでも結果を残し、そしてNBAのコートに立ちました。それは素晴らしいシンデレラストーリー。

「実力主義のアメリカ」なんていうけど、実際には期待度によって与えられるチャンスも、ガマンして成長を待ってもらえる時間も段違い。

ドラフト1巡目でさえ翌年にはカットされる厳しい世界なのがNBAであり、ましてやドラフトの60名からも漏れるような選手は将来性なんて期待されることはありません。ちょっと緩和されたのが昨シーズンから導入された2WAY契約。

実質的に2人多く契約することが可能になり、昨シーズンはナゲッツのクレイグやウォーリアーズのクック等がこれまでのロスター枠外で加わり、結果を残しています。2人は今やスターター。なんちゃってだけどスターター。

今シーズンも2WAY契約は大人気。NBAに出場するチャンス&下部リーグで育成の機会が貰えます。サンダーのバートンとか、ウォーリアーズのマッキーニーとか、ロケッツのクラークとか。実質的には「安いサラリーで自由に契約出来る枠」になっているけど、過去のルールだとロスター枠がなければ海外でプレーしていた可能性も高いのだから、有効なルールである事は間違いありません。

しかし、今シーズンは2WAY契約ながらローテーションに加わり、時にチームを勝利に導くエース級の大活躍をする選手がいるのです。既にチームの主力でありミニマム契約すら相応しくない。

ニックスのルーキーはスーパー2WAY契約!アロンゾ・トリアー

再建中のニックスで台頭する新世代、エマニエル・ムディエイ&アロンゾ・トリアー

◉ドラフトから漏れる

アロンゾ・トリアーはアリゾナ大で3年を過ごしアーリーエントリー。ドラフト1位のエイトンのチームメイトだったわけですが、ドラフトされる60人から漏れてしまいました。でもWikipediaさんによると、そもそもは超有望株

https://en.wikipedia.org/wiki/Allonzo_Trier

高校時代は各メディアからファイブスターと満点評価されており、ジョーダンクラシックでMVPも獲得しています。2015年(大学入学前かな)に参加したU19世界選手権では優勝も経験しており、アメリカ代表クラス。ちなみに代表=上位指名ではないことは注意。でも超有望株には違いない。アリゾナ大では

2年時が17.2点、マルカネンは15.6点

3年時が18.1点、エイトンは20.1点

ドラフトに漏れた理由として、プレーを観ると納得するのは、敢えて指名するほどの将来性を感じないこと。身体能力が凄いわけでもなく、圧倒的なスキルがあるわけでもない。ここは難しくて、ワン&ダンが増えてきた中でドラフト指名は大失敗も許容しての将来性重視になってきています。ニックスのミッチェル・ロビンソンなんかは最たる例だよね。

見事にドラフトエントリーに失敗したトリアー。ひょっとすると1年早くエントリーした方が将来性を買われたかもしれない。3年生になると評価も固まってしまいます。

しかし、ニックスと契約したサマーリーグで結果を残します。

17.0点、3.3アシスト、5.5リバウンド

ノックスには劣るけど、ニリキナやドットソンを上回る活躍で将来性ではなく、現時点の実力がありました。ニックスはドラフト選手達をプレーさせていたのに、あまりのトリアーの活躍ぶりで彼らからプレータイムを奪ったんだ。ちなみにジョワン・ハワードjrもニックスにいたよ。

サマーリーグで結果を残したトリアーは2WAY契約を手にします。ニリキナよりも大活躍してやっと2WAYなのが身分の低さ。

次なる舞台はプレシーズンゲーム。チャンスは5試合です。もちろん結果を残します。

23.0分 14.2点、1.6アシスト、2.2リバウンド

ニックスは主力組はハーダウェイとカンターくらいで、あとは競争社会だったはずが、またもノックスに次ぐプレータイムを手に入れました。この頃「新人王はノックス」と予想する人がチラホラいたけど、ノックスの運動能力の高さに驚かされつつも、もっと興味深かったのがトリアーの存在。

初めて見たのがプレシーズンのネッツ戦。ファーストインパクトが「良いコース取りでドライブし、引きつけるだけ引きつけてセンターへのアシスト」だったので、「良い選手だな」と思ったら、そこから大活躍したんだ。

2018/10/04 プレシーズン ネッツvsニックス

正直、この時点で既にニックスで最も期待できそうな選手がトリアーになっていました。若手達の中で最も活躍しそうなのがドラフト外のルーキーってのは凄いこと。トリアーがNBAで経験を積めば、さらに良い選手になっていく可能性だって十分にあるわけだ。そしてそれは現実になるのでした。

トリアーは1つひとつのプレーにセンスの良さを感じさせました。「自分がこのコースにドライブしたらディフェンスがこう動くはず」というのが想像できているタイプ。そこで強気にドライブする能力があり、フィニッシュのシーンでもレイアップ、ジャンプシュート、アシスト、どれを選んでもこなせるだけのスキルを持ち合わせてしました。

ただし、ターンオーバーが2.6もあり、あくまでも再建中のニックスの中で果敢にチャレンジ出来ているのが良い選手というところ。3Pも30%だし、時々ベンチから出てきて得点するくらいの期待な訳で、現時点で全然ダメだったとしても高い身体能力でディフェンスをするニリキナの方が大切なのはよくわかった。
余談だけど、この頃のムディエイはやっぱりダメだった。

◉NBAでローテーション

シーズンに入るとフィッツデイルがらしさを発揮していきます。グリズリーズという古きを温め続けるチームにいながら新しい戦力を見出していったHCは、本当は若手を育てるのが好きだし、競争させるのが好きなので、カンターまでスターターから外してテストを繰り返します。

最もチャンスを結果に繋げたのは昨年の2巡目ドットソンと4年前のドラフト9位のバーンレイ。3Pを強気に決めるドットソンはシューターっぷりを発揮したし、バーンレイは機動力インサイドとして3Pまで決める縦横無尽な活躍ぶり。カンターがふて腐れている問題もあったけど、競争させている感じが出ていたニックス。

そんな中でトリアーも結果を残していきます。

開幕戦 26分 15点

3戦目 25分 15点

ここから3試合は低空飛行ですが、9試合目のマブス戦で20点オーバー

9戦目 24分 23点

一定の評価を得ると更に存在感を増していきます。

11戦目 42分 21点

12戦目 36分 16点

この11戦目のブルズ戦は初めてスターターに名前を連ね、しかも42分もプレーします。42分プレーする2WAYって契約違反じゃないの!?

4Q残り28秒で同点の3Pを決めたトリアーは、ラストショットも託されますが外してしまいオーバータイムへ。そこでも決着がつかずダブルオーバータイムに突入すると、チーム7点のうち5点をトリアーが奪いました

勝負強さまで見せてしまうトリアー。完全に契約外だろ。ラストショット決めていたら、史上最も安いクラッチシューターだっただろうね。

ちなみに試合は残り時間が1秒切ったところでラヴィーンにファールしたムディエイによりニックスは敗れたのでした。何してんだムディエイ。というかなんで大事な場面で試合に出ているんだムディエイ。ローテーション外と思われていたムディエイはこのブルズ戦で16点をあげ、ニックスの若手競争に名乗りを上げたのでした。

こうしてローテーションプレイヤーになったトリアー。開幕から全試合プレーしているので、そろそろ2WAYの45日間も終わるはず。間違いなく本契約を結ぶスーパー2WAY契約なのでした。ノアをウェイブしたニックスですが、サラリー削減だけでなくトリアーのためにロスター枠を空ける必要があったからじゃないか。

◉エリートスタッツ

ドラフト外のアロンゾ・トリアーはここまで11.5点でルーキーの中で得点7位。7位だぞ、得点だけなら53人抜き。最近コメントで「掘り出し物ルーキーは誰?」という話がありますが、圧倒的No1がトリアー。段違いの成り上がり。

そして試合数をこなしてきたことで成長した部分だったり、本来持っている特徴がよりしっかりとNBAレベルで発揮出来るようになってきています。

3P47.2%

高確率の3Pはサンプルが少ない事情もあるけど、しっかりと決める能力を見せています。キャッチ&シュートで19本、プルアップで17本のアテンプトがあるのですが、ほぼ全てがオープンでのシュートになっており、判断良く打ち抜くことが出来ています。ミドルも49%と確率が高くシュート力はトリアーの大きな武器です。

これがサマーリーグやプレシーズンでは発揮し切れていなかったわけで、チーム戦術やNBAレベルのディフェンスに慣れてきたといえます。

トリアーは豪快なダンクも、目を疑うアシストもなく、フィジカル負けする体格、193センチの身長、何より試合中に目の覚めるようなハイライトプレーが少ないのが困ってしまうところ。

シュート力が高いのですが、かといってシューター的なオフボールムーブはしないし、クイックシュートなんてもってのほか。ドラフトから漏れたようにワンプレー・ワンプレーは平凡なのです。

しかし、それでは記事にならないので、ボールじゃなくてトリアーをずっと見続けてみると、結構面白いことが。

ドライブが中心のトリアーは、オフェンスではたまにウイングでボールを貰ったときに何もしないでパスを逆サイドの方へ出すのですが、実に良くディフェンスの状況をみていて、自分のサイドに人数が多いと全く勝負しません

ドライブした際もマークマンにコースに入られることが多いのですが、特に気にする様子もなくドリブルを続けて簡単にパスアウトします。これらの何気ないプレーが興味深い。

スピード溢れるドライブもフィジカルを活かしたドライブもないトリアー。しかし、フルスピードじゃないから簡単に止まります。フィジカルがあるムディエイはドライブが止められてもゴール下までは進み、キックアウトを狙うのですが、当然混雑した中でミスも多いわけです。

トリアーはとにかく混雑が大嫌い。人が多いところには進入せず、逆サイドに任せてしまいます。瞬間の判断力とかではなく、フロア全体を見ている中での効果的な判断をしているトリアー。極めて普通のことだけど、それが出来るルーキーは少ない。

チャレンジするのに冷静なトリアーは、ヘルプディフェンスが動いて空いたスペースにドライブするのが好きな様子。マークマンは「ここにヘルプがいるはず」と思ったところに誰もいないので抜かれてしまうケースが出てきます。そこを抜くスピードやスキル、そしてフィニッシュパターンをしっかり持っているトリアー。

既に結果を残したことで、より焦ることなくプレーしているようなトリアー。これでFG49.7%とガードとしては極めて優秀な成績に。ここまでフリースローも85%を記録しています。それは昨シーズンにデュラントとタウンズしか記録しなかったエリートスタッツの可能性を感じさせます。

FG50%、3P40%、FT85%

2WAY契約のドラフト外ルーキーがデュラント・タウンズクラスだと!!

それは契約書に書かれていないだろ!!

スーパー2WAY契約なのがアロンゾ・トリアー

さて、ガードなのにFG50%というのは素晴らしい数字ですが、多くの場合はシューター系が記録するのに違うタイプなんだよね。そしてニックスにはもう1人そんな選手がいるんだ。FG50%を記録するガードは

ウソだろ、ムディエイなんだぜ。

3P31%、FT67%と相変わらずシュートが下手なのに、フィジカルで吹っ飛ばしてのレイアップが信じられないくらい向上しているムディエイ。笑っちゃうよムディエイ。3年前のドラフト7位なんだからマグレとは言わないでくれ!

◉ディフェンス

トリアーが慣れてきた要素の中に含めたいのがディフェンス

被FG 39.0%

DIFF △4.3%

サンプルが少ない中でのDIFFは最も信用できないスタッツなのですが、それでもここまでのトリアーの素晴らしさは十分に感じられます。フィジカルのないトリアーですが、スクリーンを避けながら距離を詰めたり、手を挙げたり、いろんな駆け引きをしていくタイプで、リズムを乱そうとしています。ホリデーを止めたのは見事だった。

ここでも状況判断の良さがあり、フロア全体を見回すために、オフボール時に何度も首を振り「どこのポジションで選手が空きそうか」を確認しては、自分のポジションを修正しています。勝負所では見えにくい角度からダブルチームを仕掛けるシーンもあり、なかなか面白いディフェンス能力があるトリアー。追いかけ回すのが得意でムーアに仕事をさせなかったのが印象的。

ただスティールは0.6なので、もう少し伸びるんじゃないかなー。ちなみにムディエイは21分のプレーでチームハイの1.1本を記録しています。36分換算するとホリデーを上回るんだ。もうムディエイの話は要らないかな?

トリアーがNBAに慣れてきたというのは、「判断力」を試合の中で発揮出来るようになってきたことからわかります。ディフェンスでいえば、モンスター達を相手にする中で
「どの距離感なら抜かれないのか」
「どんなプレッシャーが効果的なのか」
を理解し始めてきたということです。身体能力が低い分を判断力と引き出しの多さで埋めています。

攻守に周囲を見回してのフロア状況を判断する力があり、自分が通用するプレーを見定めることが出来てきているトリアー。本来は下部リーグ含めて育成のための契約であるのだから、既にNBAで経験を積んで成長しているは正しい姿のはずです。

ペリカンズ戦ではFG9/12でキャリアハイの25点を記録し、リバウンドもキャリアハイの8本と攻守に奮闘したトリアーはニックスの中で非常に面白い存在になってきています。

それはキャリアに失敗してきたムディエイも同じ。ペリカンズ戦で27点を記録したムディエイは7リバウンド4スティール。フィジカルの強さで突破してフィニッシュしきる姿は、一皮むけてきました。2人は同じ22歳とこれからが本番の選手です。

「ガードではなくアタッカー」みたいな起用法をするフィッツデイルの中で、プレースタイルがマッチしたようなトリアーとムディエイ。何故か同じ試合で活躍し、どちらもクラッチタイムに得点を重ねるという巡り合わせ。何だか対照的な能力を持つ2人は実は相性が良いのではないかと思っています。

失望も重ねながらニックスで巡り会った2人はニリキナやトレイ・バーグというライバルに囲まれて結果を残し続けなければいけない環境でサバイバルレースに挑んでいます。

2WAY契約のトリアー、ルーキー契約最終年のムディエイ。どちらがより大きな契約を手にして来シーズンを迎えるのだろうか。ていうかトリアーの代理人はそれなりの契約を要求するだろうから、2巡目で指名されるよりも良いサラリーを手にするかもしれない。

スーパー2WAY契約は本契約になれば自由に契約可能。ルールでサラリーが定められているドラフト選手を上回る可能性もあるのでした。

スーパー2WAY契約 アロンゾ・トリアー” への8件のフィードバック

  1. トリアー特集待ってました!
    ありがとうございます!

    数字でみるとタウンズ、デュラントと同じなんですね!ルーキーで、しかも2wayで、恐るべし!
    ステップバックミドル、チェイスダウンブロック、ロビンソンへのアリウップパスなんかも上手いな〜、って見てましたがDも含めて状況判断がいいからなんですね!
    そして、ムディエのゴール下でのガチャガチャはよく分かります(笑)
    ムディエが昨年と大きく違うのは、レイアップが決めれる事に加えてミドルが結構決まってますよね。去年のジャックみたいにフリーのタイミングで打つやつ。
    怪我で少し足踏みしてたノックスも最近目立ってないのでここからの成長を期待したいです。。。

    レジェンドのユーイング、ラシードウォレスもミーティングや練習にきてアドバイスしてくれてるみたいだし、NYファンの期待はここ最近ない形、負けてても成長を期待しながら見れるのは幸せですね。

    1. ムディエイは確率的にはアウトサイドはそんなに成長していませんが、苦し紛れのシュートではなく、ドライブを警戒されるから打つシュートになっています。だから印象も良いのかもしれません。伸び代とも言います。

      トリアーの判断の良さはスペースを有効活用する良さなので、インサイド中心だった昨シーズンのオフェンスでは出てこない形。フィッツデイルにハマった感じが強いですね。他のチームで強く求められる気はしないので、ニックスは良い契約を結びたいところ。3年10Mくらいかな。ムディエイはこのまま行くとまさかの大逆転の高額サラリーになるかも!

  2. トリアーに気づいて下さるなんて流石の観察眼です!!
    自分はNBAだけでなく、アメリカの高校・大学バスケも好きで、トリアーのことは応援しており、ドラフトに掛からなかった時はショックでした。
    しかし、whynotさんも言う通り、契約までこぎつけることが出来そうなので安心しました笑
    ところで、サマーリーグの際にロケッツにいたTrevon Duvalという選手はご存知でしょうか?

    1. 高校、大学は詳しくないですが、NBA観ていると少しずつ情報はいりますね。
      デュバルはロケッツの記憶は無いけど、名前を覚えていましたがデュークなんですね。1,2回は観たはずです。デュークに残った方が良かったのかな。

  3. トリバーいいですよねー!昔のドラフトだと上位で指名されてそうな感じします。
    ドラフトの仕方が変わりましたね。個人的に思うのが、バックスのブラングドンとかクリッパーズのブラッドリーみたいなタイプなのかなーと思いました!いい具合にバランスをとってくれるみたいな!

    1. ドラフトの上位は才能重視で良いのですが、20位くらいからはもう少し完成度を評価すべきでしょうね。消えてしまう才能があるのは勿体ない。ドラフト改革がありそうなので、数年後は違う形になっているかもしれません。

      Gリーグで経験を積んでから出てくるタイプの選手が増えそうなので、そうなると戦術理解度というのも評価として重要になるのかも。

  4. 気になる選手だったので面白く読めました。
    ところで管理人さんはムディエイが好きなんですか?笑
    好きな女の子をいじめるタイプですか?笑

    コメントにもありますが、トレボン・デュバルはドラフトされなかったことが少し驚いた選手の一人です。
    掘り出し物の選手を見つけて目をつけるのも楽しいですよね!

    1. ムディエイについては、添付の記事で褒めているので、本当は褒めるほどなのか、また微妙なことを示しています。
      シーズン開幕当初は、まったくダメだったのに、ここにきてニックスで最も良い選手に成りそうなのは面白い。
      ムディエイは好き嫌いよりも面白キャラですね。期待を裏切ったはずのナゲッツファンからも好かれていそうだし。

      最近は成り上がりの選手が増えてきて、そこが面白さを増していますね。ベテランよりも下部リーグから連れてきた方が的確なプレーをするケースが多いです。

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