「第4の男」パスカル・シアカム

「ラプターズのスターターって誰なの?」

「ラウリー、グリーン、レナード、イバカ、バランチューナスじゃないかな。いや、アヌノビーかな」

今シーズンも好調なラプターズは新HCニック・ナースによってラインナップが変更されました。カイル・ラウリーとカワイ・レナードのスターコンビはもちろん、そこにディフェンスと3P担当のダニー・グリーン、センターは相手に合わせてイバカとバランチューナスを使い分けます。

もう1人の枠に収まったのはパスカル・シアカム。

ラプターズが好調な理由は柔軟になった選手起用と、時にエースにしっかりと託す形を使い分けること。ただし明確なアイソレーションではなく、しっかりとセットして局面で1on1にすることを選びます。ラウリーとレナードはもちろんのこと、ベンチメンバーになったOGアヌノビーもまた個人で突破していきます。

スターターからセカンドユニットに混ざると格落ちっぽいですが、アヌノビーの場合はむしろ限定されていた役割からエースとして突破していく形になり、より成長すべき環境に置かれています。

同じくベンチが主になりプレータイムが減ったバランチューナスですが、その能力はより活かされることになり36分換算すると24点14リバウンドと荒稼ぎ、不安定だったイバカはジャンプシュートを決めに決めて、レイカーズ戦では34点を記録するなど同じプレータイムで平均得点が5点近く上がっています。

そうやって多くの選手が大活躍するラプターズで、現在リーグのアシスト王にいるのがラウリー。そして平均25点8リバウンドを稼ぐレナードをエースに据えた盤石な体制を敷いています。

しかし、だ。

そんなラプターズから第4週のプレイヤー・オブ・ザ・ウィークに輝いたのは

パスカル・シアカム

24歳のPFが自分よりも名前が知れ渡っている選手達を差し置いて選ばれたんだ。1週間の活躍度とはいえNBAの場合はスター選手以外が、それもチームの中の主役ですらない選手が選ばれるのはかなり珍しい。

〇今シーズンの成績

得点 14.3(チーム4位)

リバウンド 6.6(チーム4位)

アシスト 2.1(チーム4位)

ブロック 0.6(チーム4位)

スティール 1.2(チーム4位)

なんという安定したチーム4位の成績。なおターンオーバーも4位だ。というわけで今回はチーム4位の男パスカル・シアカムが主役。偶然にも第4週のプレイヤー・オブ・ザ・ウィークということで4ばかりならんだポジションも4番(パワーフォワード)なんだ。

 

2016年ドラフト26位のシアカムは何も今シーズンになって開花した存在ではなく、昨シーズンも20.7分のプレータイムで印象的な活躍をしていた機動力系ビッグマン。シュートは苦手でディフェンダータイプだけど、とにかく走れるし、ラプターズらしく献身的に合わせてくるから多くのイージーシュートを生み出してくれます。

昨シーズンまではイバカの控えが役割でしたが、ジャンプシュートを打ちたがるイバカに比べるともっとリングに近づくことが好きで、スピードと身体能力で押し込む系のシュートが多い。

〇エリア別シュートアテンプト

ノーチャージエリア 86

ペイント内 30

ミドル 4

コーナー3P 19

その他の3P 8

シュートの60%近くがノーチャージエリア内で、3Pも打つけど殆どがコーナーなので所謂エンドラインを活用するタイプの選手です。ディフェンスの基本は「ボールとマークマンを視界にいれる」ということなので、エンドラインでプレーする選手はディフェンスの視野から消えることが出来ます。その代償としてプレー出来るエリアが狭いのが難点。ビッグマンだと高さで押し込むから使いやすいわけです。

6-9のシアカムは圧倒的な高さがあるわけではないのですが、3Pからゴール下まで一気に詰めてくるスピードがあります。だからディフェンスが一瞬目を離した瞬間にフリーになってしまいます。この詰め方によって、もうひとつパスが出るのが今シーズンのラプターズらしさに。ペイント内でシュートを狙うレナードにディフェンスが寄ってくるとゴール下に詰めてきたシアカムが仕留めるのでした。

〇シュートタイプ

ダンク 12

フック 13

レイアップ 76

ジャンプシュート 45

ここまで147本のシュートのうち、ジャンプシュートは45本のみ(うち3P27本)と「流れながら打つシュート」が多く、自分のスピードを活かしたフィニッシュが魅力になっています。ダンクは12本全て成功し(ダンクに行こうとしてボールを滑らしたミスはあったけど)、その反面でジャンプシュートはいまいち決まらない。

〇タイプ別成功率

レイアップ 72%

ジャンプシュート(2P) 39%

ジャンプシュート(3P) 33%

チーム4位だとシュートが上手くて目立つ選手は多いけど、シュートが下手だけど目立っているシアカム。この中で昨シーズンから改善したのはレイアップの部分。約10%ほど確率を向上させています。長いシーズンの序盤と言うことで、まだまだマグレの匂いもするけれど、その一方で試合を観ているとプレーの変化も感じるのです。

昨シーズンのシアカムが決めたFGは253本。今シーズンはここまで93。これをアシスト/非アシストに分けると

アシストあり 183→46

アシストなし 70→47

ご覧の通り、アシストなしでの得点が大きく増えています。このアシストなしにはリバウンドを押し込むプレーも含まれるので、昨シーズンは自分で切り崩してのプレーがかなり少なかったと言えます。

次にそんな形で切り崩しにいくドライブからのレイアップのみを抜き出してみると

〇ドライブレイアップ

昨シーズン 29/57 51%

今シーズン 13/21 62%

まだ昨シーズンの1/5の16試合しか消化していませんが、ドライブからのレイアップを試みる回数が明らかに増えています。昨シーズンのアテンプトを単純に5で割ると11.4回なので倍近くに増えていることに。

次にレイアップに限らないドライブの1試合平均のデータを比較すると

〇昨シーズンのドライブ

回数 3.1

得点 1.7

FG 52% 

パス 0.9

〇今シーズンのドライブ

回数 4.8 

得点 3.6

FG 69%

パス 1.4

見ての通り、FG%が大きく向上し、得点が伸びています。ただ回数に関してはプレータイムが20分から28分に伸びているので、+1.7回はそこまで多いとは言えません。FG%が大きく向上したのがシアカムの成長した部分になるのです。

さて、ここで考え直すと回数は3.1→4.7で1.5倍ですが、レイアップは2倍近くになっているわけなので、シアカムは自分のスピードを活かして突破し、そのスピードのままフィニッシュに持ち込むのが上手くなったと言えます。

「シュートの成功率が向上した」というとシュート力が向上したようですが、シアカムの場合は「レイアップに持ち込むのが上手くなった」という事になり、ハンドリングやボディバランスの向上が目立っています。ディフェンスリバウンドから自分でプッシュして持ち込んだり、スピンムーブでかわしたりと多彩なプレーを正確に表現できるようになってきたシアカム。3年目にして荒さが減り洗練されてきた印象です。ペリカンズ戦のハイライトは、そんなシアカムのプレーが出てきています。

3P33%と変わらず苦手にしていながら、今シーズンはFG63%と高い水準でシュートを決めていますが、その中身はシュート力の改善よりもシュートに行くまでの流れが良くなったこと。一方でフリースローもここまで75%と課題のシュート力でも進歩を見せています。とはいえ、傍目にみると

「シュート力に乏しいパワーフォワード」

現代オフェンスでは需要がなさそうなシアカムなのですが、もう1つの問題はワンセンターを務めるビッグマンとしては物足りない部分があります。同じようなタイプでも、例えばアンソニー・デイビスやクリント・カペラは1人でセンターをこなしています。あるいはモンテロズ・ハレルはトバイアス・ハレルやダニーロ・ガリナリと組むことで問題を解決しています。

その意味ではシアカムにとって幸運だったのは、デローザンがレナードになったことでインサイドを助けてくれるフォワードが増えた事、そしてパートルもそのトレードに含まれたことで、イバカとコンビを組むようになったことかもしれません。ゴール下で働くパートルと組んでいた昨シーズンよりも、より広い範囲を動くイバカはシアカムがアタックするスペースを作ってくれます。逆にパートルだとアウトサイドが決まらないシアカムの弱点がより目立っていました。

ウイング的なドライブが上手くなってきたシアカムの活躍に少し関係していそうなトレードなのでした。

 

〇レーティング

オフェンス 115

ディフェンス 103

素晴らしい活躍を見せ始めたシアカムのレーティングをみるとオフェンスがよく見えますが、ラプターズはチームでも114あって、スターターの中では悪い方です。むしろディフェンス面の方がインパクトがあり、スターターで最も良いだけでなくシアカムがベンチに座っていると108まで悪化します。

あくまでもディフェンスこそがシアカムを起用する大きな意味で、そこに加わったオフェンス力によってラプターズを支える基盤になり始めているのでした。マンマークでも強さを誇るものの、スイッチが多くなった現代ではレブロンにぶち抜かれたりとスピード系が少し苦手。レブロンって別にスピード系じゃないけどね。それくらい置いて行かれることが多いのです。

ここでもレナードとグリーン効果があって、いわゆるエースキラーの役割を引き受けることがなくなったため、その機動力を活かして広い範囲をカバーするプレーが出来ています。

〇ディフェンス

スティール 1.2

ディフレクション 1.3

ルーズボール 1.5

これらの数字もチーム全体が高いため、別に目立たないのですが、どの数字でも標準以上となるのがシアカムっぽい。4番目の男なのに、ディフェンスレーティングでの貢献度は非常に高いのです。エースを守るわけではないし、強力なリムプロテクターでもない。だけど大切なシアカム。

新たなスピンムーブの使い手は、今シーズンのラプターズが変化した理由がレナードの獲得だけではないことを示してくれています。そういえばレナードのトレードが成立したときに、「どうせ1年契約で損をする」という一般層の意見とは違い、専門家達の中ではレナードが残留するかどうかではなく、仮にFA移籍したとしても

「ラプターズは若手に切り替えて再建に進める」

という意味合いから評価されてもいました。それはドラフト上位指名を求めるのではなく、OGアヌノビーやデロン・ライトを抱えるチームが次の世代に中核を移すということでした。

その中心に名乗りを上げたパスカル・シアカム

あくまでも脇役でしかなかった第4の男が身につけた自分でアクションして得点していく手段であるスピンムーブで第4週のプレイヤー・オブ・ザ・ウィークに選ばれました。

リーグのスターを差し置いて選ばれたラプターズの第4の男

更なるブレークを果たすことは出来るのでしょうか。3連敗中のラプターズは、ラウリーの不調、レナードの勝負どころでの5本のターンオーバー、ラウリーの不調と2人のエースの失速が原因でした。それらはプレーオフへのちょっとした不安にもなり得るものであり、ラプターズファンはそんな時に助けてくれるニュースターを待っています。

 

「第4の男」パスカル・シアカム” への4件のフィードバック

  1. シアカムがディフェンスリバウンド取った時は自分で運んでラウリーは先に走ってるとか、トランジションの起点としても面白い存在だな、と。完成形のロールモデルが余りいなさそうなタイプですよね。

    1. 確かにこれといって比べる対象がいないのかな。旧型っぽい性能で新型っぽいプレーをしているので、似た選手はいるけど役割が違うって感じかな。

  2. まだ荒削りな部分もありますけど将来が楽しみです。オフコートでも明るいキャラクターでチームを盛り上げているのもいいですね。
    レナードが出て行くことも見据えた選手起用というのも納得です。もしそうなったらアヌノビーをエースにシアカムやヴァンフリート達と戦っていくのかな。再建というほど弱くならない気がしますね(笑)
    できればまだ数年はレナードに残ってもらって東の覇権を争ってほしい!

    1. レナードは残ると思うのですが、この先のチーム状況は読めないですから、結果次第でしょうね。そろそろファイナルへ行って欲しいな。
      ラプターズは今のカルチャーが残るのであれば、そこまで弱くなることはないでしょうね。下部チームが機能しているので、有望株を育てる環境が出来ていますね。

nns へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA