ウォーリアーズ包囲網

昨シーズンは4チームに負け越したけれど、スパーズ以外のチームに負け越したのは13-14シーズン以来。

[NBA開幕プレビュー ウォリアーズ]最強チームに死角はあれど、最強に変わりなし

ペイサーズがウォーリアーズをシーズンスイープしたのは13-14シーズン以来の快挙。いくら強いとはいえ2試合しかないイーストの15チームにがひとつくらい勝ち越しても良かったはずですが、2連勝というのは極めて長い道のりだったのでした。

一方でロケッツ、ブレイザーズ、ジャズは普通に勝ち越しました。ウエストの上位チームが勝ち越していることは重要で、長いシーズンで考えると無敵のチームではなかったのです。ただし、プレーオフで運が良かったのはスパーズ、ペリカンズとお得意様が対戦相手になったこと。ナゲッツやブレイザーズが相手だったら、そこまで楽には勝てなかったはず。ウルブズは楽勝。

ウォーリアーズはデュラント、カリー、トンプソンという強力なスコアラーを抱える反面で、その他の選手は基本的には脇役を務めます。脇役達はイージーシュートばかりを打つのも特徴で、高いオフェンス力を発揮するために主役に引きつけて脇役も仕留めているのです。

一部に例外がいて、リビングストンとウエストはベンチから個人の力で得点してしまい、ヤングはシューターとして得点するのが役割でした。超例外はイグダラだけど。

 

今シーズンはベンチが弱くなったというよりも、層が薄くなりました。主役と脇役の関係性は変わらないし、戦術面も同じなので、大きな苦労をすることはないでしょうが、一抹の不安が残ります。

さて、ウォーリアーズが強さを維持するか、弱くなったかは別にして、そこまで圧倒的には勝つことはないというのが今シーズンの予想です。その理由は各チームが勝つ方法を考えてきているから。それは昨シーズン4チームに負け越したことからも伺えます。他にもナゲッツとサンダーも2勝2敗と五部の成績を残しています。

「ケガ人が多かったから」というのは言い訳で相手だってケガ人はいたし、実際問題メンバーが揃っていても負けています。もちろん58勝という成績そのものは、あそこまでケガ人が多くなければ向上するはずですが、それとこれとは違う話。なお、何故かキングスも2勝2敗。

 

ウォーリアーズが弱くなったのではなく、ウォーリアーズ包囲網が出来上がってきた

それが現在のNBAの凄いところ。戦力で劣っていても、勝てる方法論を真剣に討論し、思い切った作戦を採用したり、特徴ある選手を揃えることで結果に結びつけています。

上記の互角に戦ったチーム(キングス以外)を題材にして、その方法論を考えましょう。

 

◉ペイサーズの場合

プレビューにも書いたペイサーズはわかりやすいチームで、戦える選手を10人揃えてきました。今シーズンは12人まで増えるかもしれない。スターターと遜色ない選手達が次から次に出てきて、常にフルパワーで向かってくるため、球際の強さが光ります。

主役と脇役が明確に別れるウォーリアーズへの対抗策として、誰もが主役たり得るペイサーズの方法論はおそらく最も相性が悪い。特にウォーリアーズは3Qのラッシュが特徴的だけど、ペイサーズは選手交代で流れを変えていくことも、逆にラッシュをかけることもあります。

試合中に何段階もギアが入り直す強さはサプライズを巻き起こしましたが、ちょっとだけ似ているのはラプターズの最強セカンドユニットだったりして。

今シーズンで最も警戒すべきはクリッパーズ。質より量で押し切られる可能性があるのでした。この作戦は「高額サラリー+ミニマム契約」でロスター構成しているウォーリアーズに対して、「全員がそれなりのサラリー」であることも見過ごせません。両方を成り立たせるには、オールスタークラスが安く契約しないとダメ。カズンズ。

 

◉ナゲッツの場合

ナゲッツもまたペイサーズに近く、どこでも誰からでも得点がとれる強みがあります。サラリー的にはルーキースケールの若手が中心選手という特性も。ただ、フルパワーでエネルギッシュに戦うペイサーズと違い、ナゲッツの場合は守っているのか守っていないのかよくわかんないレベルのチーム。

ナゲッツが採用している作戦は「オフェンスの火力で押し切る」という本来は攻守に優れるウォーリアーズにとっては楽勝の相手なのですが、本当に押し切ってしまったのでした。

決まりだしたら止まらないスプラッシュブラザーズ以上に決まりだしたら止まらない選手だらけのナゲッツ。マレー、ハリス、ライルズ、バートンに更にアイザイア・トーマスまで加わります。シューターの質では若干劣ったとしても、量で上回るのがナゲッツ。爆発させたら手に負えないチーム。もちろんギャンブル感も満載。

 

◉サンダーの場合

ナゲッツのような止まらないシューターではなく、大体は外してしまうウエストブルックを中心にしたサンダーはディフェンスで止めきって勝つ。時にはロバーソン、ポール・ジョージ、カーメロとスターター3人を欠いているのに勝ってしまいました。やり方は至極簡単。素晴らしきボールムーブを持つウォーリアーズに対して個人がしっかりと守ってボールムーブさせないだけ。連携力を潰してしまうディフェンス力個人でもチームでも守れる必要があります。

ボールムーブさせなければデュラントやカリーがシンプルに打ちやすいので、決めてくるわけだけど、それを後出しでも止めきってしまう個人のディフェンス力があるのでした。特にカリーには自由奔放にやらせまくるウエストブルックという構図はよく見かけるシーン。全部抜かせて後ろから追いかけるのでした。

なお、地味な話としてはアダムスがウォーリアーズの弱みをついてくるというのも忘れてはいけない。ポストアップで得点してしまう。そしてディフェンスでアウトサイドに引き出されても、リムプロテクトしてリバウンドに行くのはウエストブルックだから問題ないという変な事情も。

 

センターが強いチームなら、少なくともオフェンスでインサイドをガンガン攻める事が出来るわけですが、ハワードが破壊したくらいで意外とそんな事例は少ないのでした。パートル君も頑張っていたし、オルドリッジもスーパーだったけど、3P40%よりも得点がとれないという形なのかな。

 

◉ブレイザーズの場合

こちらも自慢のディフェンス力で勝負してくるブレイザーズなのだけど、変わり者なのはデュラント勝負を挑むこと。史上最高のオフェンスマシーンとさえ思える選手を自由にしてアミヌと1on1させる代償として他の選手にはパスを出させないのがブレイザーズ。連携力を削るのはサンダーに似ている。

日常的に得意技としてハンドラーを自由にするチームはデュラントにミドルを打たせまくり、かなり決められまくるけど、それをリラード&マカラムで上回る作戦でした。サンダーと違うのは、アミヌとハークレスが3Pをバシバシ決める3&Dとして存在しているので、ある意味ディフェンスはデュラントに絞ることで大ケガを避け、オフェンスで上回るという構図です。

ウォーリアーズに対して「3Pを打たせない」という至極まっとうな方法論なのだけど、やり方が極めておかしなチームです。でもそれで勝ち越したのさ。デュラントには50点と40点とられて勝つのでした。デュラントの評判を落とさせたのはブレイザーズだから。そんなデュラントを指名しないでオデンを指名したことを未だに弄られるブレイザーズ。

似たようなことはセルティックスもやっているけど、あっちはジェイレン・ブラウンで徹底的にデュラントを消しに行って、最後はアーヴィングvsカリーにしていたよ。そっちの方が納得なチョイスなのでした。

 

◉ロケッツの場合

ロケッツの場合は、オフェンス面はダントーニが作り上げるスペーシングオフェンスがいつも通り導入され、そこにほぼウォーリアーズ対策のために講じられたディフェンスシステムで封じ込めに行きました。打ち合って勝ったことも、守り合って勝ったことも。ただし、プレーオフを観ても分かるようにより重要だったのはディフェンス面なので、その意味では「徹底したウォーリアーズ対策」を講じたチームだと言えます。

特にスイッチしても守れるディフェンス力は驚嘆すべきで、素晴らしいディフェンス力のカペラは、アリーザとバーアムーテがいなくなった現在ではロケッツ最高のペリメーターディフェンダーかもしれません。マジで。カペラが元々備えていた能力はもちろん、ガード相手でも守ることを求められるシステムだからこそ、ここまで辿り着いたわけで、カペラの成長はウォーリアーズの存在が欠かせなかったでしょう。

徹底したウォーリアーズ対策を原点にチームを成熟させていった特殊なチームのロケッツ。ただ、このやり方がリーグ最高成績をたたき出すシステムでもあったことは忘れてはいけません。徹底しているけど、単なるウォーリアーズ対策ではない戦術なのでした。

 

◉ジャズの場合

昨シーズン唯一3勝を奪ったのがジャズ。その秘密は・・・普通に戦って普通に勝った。ある意味特殊な存在であり、その戦術を未来型と評する理由でもあります。勝った試合の得点差も40点、30点、19点と大差。なお、19点差の時がケガ人だらけの試合。

ジャズのディフェンスはディレクションをしっかりとして、追い込んでいくプレーを徹底するのですが、効果を発揮してトンプソンを抑え込んだ試合もあれば、FG12/17と決められまくる試合もあるので、良くも悪くも。ただ、そもそもディフェンスの良いチームであり、インサイドのイージーシュートを打たせないチームでもあります。そこにハードなディフェンダーが複数いるので、ある程度は止めるのです。

 

予想外に爆発したのがオフェンス面。ジャズ的にはいつも通りのオフェンスだったのですが、その内容がウォーリアーズ対策になり得るものだったのは興味深い所。

デュラント相手に3Pを決めまくるイングルスによって、デュラントがフェイスガードで張り付くと、そこから一気にジャズの流れに。デュラントの高さがなくなったことで、ゴベアーやファイバーズは自由を手に入れました。高速ヘルプのグリーンですが、ヘルプの動きで次のプレーに移行するのが速いジャズなので、問題なくパスでかわしてしまいます。本来は強みであるデュラントとグリーンに真っ向勝負で効力を消していく。

インサイドが弱点のウォーリアーズからデュラントをアウトサイドに出してしまったわけですが、それをイングルスにやられたのが痛く、そこからはもうやりたい放題になったジャズでした。

 

ジャズって流れるようなオフェンスで、ディフェンスが薄いところを突いていくチームなのですが、強くなった理由は「相手の強い部分を粉砕するドノバン・ミッチェル」という存在も大切でした。プレーオフでもポール・ジョージとブリュワーを当ててきたサンダーに対し、そのマッチアップで突破していくから計算出来なくなるサンダー。もちろん、そのための下準備はしっかりとしているけど。

vsウォーリアーズではイングルスがデュラントを粉砕しに行ったのでした。

 

◉つまりはどういうことなのか?

スターを抱えるウォーリアーズの戦力は充実そのもの。それを打破するためには各チームが工夫を凝らしているけど、対策自体はバラバラなので、自分達のやり方を突き詰めればよいことになります。

 

〇ウォーリアーズにはない選手層

ペイサーズ、ナゲッツ

 

〇ピンポイントの個人勝負で上回る

サンダー、ジャズ

 

〇作戦勝ちする

ブレイザーズ、ロケッツ

 

無理矢理だけど大きく分ければこんな感じかな。付け加えると「連携力を消す」のはサンダー、ブレイザーズ、セルティックスのディフェンスに共通する要素でもありました。そこから始まる個人勝負で上回るタレント力がないと採用しにくい作戦。

昨シーズン勝てなかったスパーズですが、ポポビッチが好きなのはピンポイントの勝負に持ち込むことです。マレーで誰かを止めに行き、オフェンスではオルドリッジいるしインサイドを潰していく作戦は機能するかもしれません。3P決まらなかったのが痛かっただけ。

 

ペリカンズ、ウルブズについては真っ正面からぶち当たるしか手法がないイメージなので苦しい。なお、ペリカンズの場合はアンソニー・デイビスがいるからそれでも勝つときがある。

今シーズンはここに若さでアタック(層の厚み)のレイカーズと、全員主力のクリッパーズがいるので、移動やらなんやら、長いシーズンの戦いはこれまでよりもウォーリアーズを苦しめると予想しています。これまでが勝ちすぎだっただけさ。

 

スターを揃えたウォーリアーズだけど、無理をさせるのはあくまでもプレーオフから。そして各チームはシーズンの戦い方でプレーオフでも通用するかを考えながらチームを構築する必要があります。計算外だったバーアムーテの不調はロケッツのオフの動きを変えたと思うのでした。

ウォーリアーズが弱くなったのではなく、しっかりと包囲網が敷かれてきていた昨シーズン。それは1つのトレンドとして、他のチームも採用する部分があるはず。同じように戦っていては、同じようには勝てない世界。

 

なお、それはロケッツも同じだと予想するので、新たに登場するであろうロケッツ崩しの方法論にも注目です。

 

ウォーリアーズ包囲網” への8件のフィードバック

  1. ブログをいつも読ませて頂いております。

    復帰も先ですし、まだなんとも分からないかもしれませんが、ウォリアーズはレギュラーシーズンをそこその成績で終え、プレーオフに全力にかけてくるはずです。

    ここに管理人が書いているのはあくまでシーズンのことだと思いますが、ロケッツをはじめプレーオフ仕様のウォリアーズに勝てる戦略や選手を立てないと意味をなさなくなってしまうと思います。
    そこには当然復帰しているカズンズがいます。カペラやヨキッチ相手からでも1人で強引に決める強力なインサイドが1人入ることによってミスマッチを作れる選手がデュラント以外にも加わり、カペラやゴーベルなどリーグ屈指のセンターもその対応に追われることになります。その場合プレーオフに入るとプレイタイムが38分近くまで増えるであろうウォリアーズの強力なオールスターメンバーに対抗できなく、今年は1年限定のオールスターズチームのスリーピートを黙って見てるだけになってしまうのでしょうか?

    1. ロケッツやサンダーは1年かけてチームを作っていく算段なので、プレーオフはまだ早いかな。

      その点では変化に乏しいウォーリアーズはカズンズに突破口を見出したいわけですが、ミスの多い選手であり、スピード不足で運動量も少ないデメリットがあります。
      例えばロケッツの話だと、カペラはあまり関係なく、カペラがスイッチしてカリーのマークになった際に、vsハーデンで決め切るかの方が大切だったり。決めるなら強くなるし、決められないなら見た目よりも弱くなります。

      ブレイザーズのベンチ問題やナゲッツのアイザイア・トーマス問題など、他のチームも未知数の部分が大きいので、勝てる方法論を探していく段階でした。

      まぁ現時点でジャズとやったらジャズが勝つと思います。プレーオフで大切なのは、ケガ人がいない事なので。

  2. チームによってウォーリアーズの対策が違うのにこの質問は意味があるか分かりませんが、カリー、トンプソン、デュラントの内、最初に止めなきゃいけない選手、最も止めなきゃいけない選手などはあるのでしょうか?

    1. 最初に止めるべきはトンプソンです。動き回るシューターは最も手がつけられないだけでなく、チームが循環していき、ディフェンスに穴が空きまくります。
      それ以上にパスが通らないと、割とデュラントとカリーが個人勝負し始めてくれるので、分かりやすくなります。

      ブレイザーズがデュラントにやらせるのは、それが最も簡単に個人勝負してくれるからかと。ただ、あまりにも高確率で決めてくるから、普通のチームは選択出来ないんですけどね。

  3. 今オフで一番対策を進めたというと、やっぱりOKCですかね。控えにシュルーダー、ノエルを加えて、ルーキーのディアロも良いディフェンダーになれそうですし。去年のHOUに続いて、今年はOKCが勝負どころの年だと思います。

    1. サンダーは単に補強する余裕が無かっただけとも言えますが。特別な戦力を加えなかったけど、層は厚くんなりました。
      問題はシュルーダーとノエルのディフェンスがハードさを保てるかどうかかな。

  4. 本来ウォーリアーズってニッチ戦術ですから、何かひとつ掛け違えれば回らなくなるハズってピーキーイメージでしたけど、各チーム面食らってる時間が長かったのかもしれないですね。
    カズンズを補強したのもウォーリアーズ側に常にそういう危機感があって、デュラントに続き普通の強さを求めてたのかと。

    1. リビングストンの役割なんかはそこに当てはまりますよね。チーム戦術と関係ない得点を稼いでくれる。ジャマクロの噂があったのも、そんな理由だと捉えています。

      大体はデュラントが何とかしちゃうからリーグ最強でいられますが、それがなかったら対策は強化されていたかもしれません。

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