ジャマール・マレーは「勝てるPG」なのか?

ナゲッツのPGは正統派であり、特殊系

 

現在のNBAのPG陣は難しい。優勝しているのは超特殊系のステフ・カリー。高確率のシュート力が強みであり、ゲームメイク力には乏しく、突破力不足でプレーメイクもトップクラスとは言えない。だからこそプレーシェアが可能になり複数のスターが同居するチームになっている。

最強なのはラッセル・ウエストブルック。こちらはプレーメイクが段違いで突破力と視野の広さで、展開に乏しいサンダーのオフェンスを無理矢理構築してしまう。でも本人のシュート力に課題が大きく、プレーシェアに問題が発生する。

ゲームメイクと言えばクリス・ポールだけど、ロケッツに移籍し実際には得点することで貢献することになった。自分が得点出来ればパスが回る状態は、これまでのクリス・ポールとはちょっと違う。そして中心になるが故に、その不在がチーム構成に影響を与えすぎる。

 

他にもウォール、リラード、アーヴィングなどなど、基本的に自分で得点することがPGにも求められている。ゲームメイク力のみで高い評価を受け、チームを勝たせているのはリッキー・ルビオだけではないかとすら思えてくる。

PGに何を求めるのか?

それは本人の高い能力だけでは片付けられない部分があるのが難しい。分業化が進むだけにPGが優秀でそこに依存するほど総合的なチーム力が低下する危険性すらあるのだ。


icon

名門ケンタッキー大から16年ドラフト7位でナゲッツに加入したジャマール・マレーはPGだが、アシストが3.4しかない。ハッキリ言ってこの高順位で指名された選手が31分もプレーして3.4なら大失敗のドラフトだ。

ちなみにマレーは15年7位指名のムディエイからPGのポジションを奪ったのだが、ムディエイのアシストは5.5あった。ルーキーとしては十分な数字で期待値も高かったのだが、遙かにアシスト力に乏しい後輩に負けてしまったのだ。

 

その意味ではマレーもまた新しいタイプのPGといえる。ハンドラーとして自分で打開していくプレーヤーが広まっていく中で、むしろ自分では打開せず、周囲にプレーを促していく他人任せのようなスタイルのPGは、これだけアシストが少ないにも関わらず非常に優秀なPGなのである。

それはスターを共存させることが可能なPGであり、チームを上手く回している存在でもある。

 

マレーは1試合に53.6本のパスを出し、そこから12.2本のシュートが生まれ、5.0本が決まっている。パスの数は多いけど、シュートに結びつく数が少なければ、その確率も悪い。要するにフリーの選手にパスをしているわけではない。驚くほどにパス効率の悪いPGである。

そんなナゲッツのアシスト数はリーグ5位の25.1本もある。「ヨキッチがいるから」と言われそうだが、そんなヨキッチもアシストは6.1とセンターとしては多いけど、チームの24%に過ぎない。

ナゲッツのパス本数は300本ちょっとでリーグの中位くらい。パスの本数が多くなくて、特定の選手がアシストをするわけでもないけど、チームとしてはアシストが多いというちょっと変わった特徴を持っているのだ。

 

だから尚更マレーの存在は異質に映ってくる。

本人は高いプレーメイク力を誇るわけでもないが、周囲にボールを配球しプレーメイクをさせている。次々にパッシングしていき「チームとして」フリーの選手を作っているようでいて、「マレーが小さなアドバンテージを得た選手を適切に使っている」と捉えられなくもない。

実はゲームメイク力がありそうなのがジャマール・マレー。特定の選手に拘ることなく、自己主張が強いわけでもなく、淡々とボールを捌いていく。ボールが回ってくることがわかっていれば選手の動きは活発になる。マレーが作るゲームはそんな信頼感から成り立っている。

 

なお、基本的にマレーと言うよりもナゲッツというチームが、そんな形を作るのが上手いので「マレーはゲームメイクが上手い」と言い切ることも出来ないのでした。プレーオフ行けなかったしね。

そんなマレーが明確に優れているのがシュート力

フリースロー 90.5%

3P 37.8%

32%に留まったプルアップにより3Pの確率はエリートシューターとはいえないが、それでも2年目としては優れた成績を残した。アシストしないので40%には乗せたいところだが、それは現実的に改善できそうでもある。シュートセレクトは素晴らしいわけでないが、打たなくなったら存在価値もなくなるから、難しいシュートでも決めることが求められる。ちょっとカリーっぽい。

ただしシュートが上手い割にFG45%に留まるのは、ドライブをあまりせず、ミドルを積極的に打つタイプだから。シュートの上手い選手なのだけど、そのシュート自体にも改善点は多い。

 

そしてこのシュート力に関して、尚更良かったのは4Qになるほど強かったこと。終盤になった方が自分で打って決めていく勝負強さがあった

・・・のだったが、それもシーズンが終わりを迎える3月になると一気に停滞してしまった。2月に強かったナゲッツが停滞していった理由はいくつかあれど、その中の1つが勝負所でのマレーの停滞。

 

逆に言えば、PGとしての存在感がなさそうでありながら、試合の勝敗に大きく絡んでいるのがマレーの良さでもある。16.7点はスコアラーではないけど、チームの浮沈を握るだけの価値をもった選手。

人の良さそうな顔の若者だけど、その中身はしっかりと闘争心あふれるタイプで、積極的に仕掛け、ぐっと勝利をもぎ取ろうとします(そしてミスもする)。周囲にプレーメイクさせるタイプだけど、自分でのフィニッシュ力には優れている。

icon
icon
今回のテーマは

「勝てるPG」なのか?

ということ。優秀なPGが多くいるNBAの中でマレーの存在はひときわ輝く要素がありません。何でも出来てスマートにこなすけど、力強く「オールスタークラスになれる」と書くような存在ではない。

 

しかし、チームが勝つために強力すぎるPGは時に邪魔をすることがあります。ボールを独占したり、リズムを狂わせたり、周囲の成長を促せなかったり、相手の弱点を使えなかったりetc

マレーの良さはテンポが良いことであり、チーム全員が活躍する下地を作れること。長い目線でチーム作りを考えた時に、マレーのゲームメイクは多くの選手を巻き込んで行くことが出来ている。いうなれば

相性の悪い選手を生み出さないPG

だということ。個人技で突破したい選手にパスを供給するし、連携力を発揮したい選手と合わせもするし、自分に回ってきてもしっかりと決める事が出来る。そして多くの選手にボールを供給するから、チームオフェンスがワンパターンになりにくい。

 

ヨキッチの良さで出来ているようなナゲッツだが、そこのPGがマレーだからこそ変にヨキッチ頼みにならない形を構築している。オフェンスで打ち勝つのが基本ラインのナゲッツが試合の中でガス欠を起こしにくい理由は、パスをテンポ良く捌くマレーのゲームメイクにある。

 

ちなみに本来はこうやって、チーム全体に供給していくタイプの良さは

「スタミナロスを抑えてディフェンス面でも高い貢献が出来る」

という部分にも出てくるのだが、ナゲッツもマレーもディフェンスが出来ないから、十分に良さを活かしきっているとはいえません。ディフェンスで存在感を発揮していればマレーのことはもっと褒めているよ。

NIKE 公式オンラインストア

 

高い個人能力を発揮していくPG達の中で、全く違う要素で勝負しているようなジャマール・マレー。常に脇役でいられるメンタリティがありながら、自分で試合を決めるシュートを迷いなく打つタイプ。

古くて新しいタイプのPG

プレースタイルは全く違うけど、PGとしての存在感で言えばトニー・パーカーが一番近いかもしれない。オフェンスの中で確実にボールに絡んでいるけど、絡む割にはアシストは多くなかったり、個人突破は少ないけど連携は頻繁に使うし、そもそも周囲に任せることが出来る。大事なシュートを自ら強気に打つことも躊躇わない。

 

マレーはアシストを増やす必要があるし、シュート力も改善が必要だ。何よりディフェンスの向上が必須。そんな若手期待株だけど、マレーの成長は周囲を犠牲にする必要がなく、むしろ成長させたい若手を同時に抱えることを厭わない貴重なプレースタイルのPG。

長いスパンで観たときに「勝てるPG」であるはず。

アイザイア・トーマスが加わっても、マイケル・ポーターが加わっても、誰が加わっても邪魔をせず、それでいて存在感を発揮していそうなのがジャマール・マレーのスタイル

 

あとは勝利という結果を残すだけ。

今のところは勝てるPGとは定義されないが、未来のPG像を作り上げる可能性を秘めている。

 

ジャマール・マレーは「勝てるPG」なのか?” への10件のフィードバック

  1. ナゲッツは、かれている通り相性がいいマレー、ハリス、ヨキッチをコアにするビジョンでしょうか
    昨期あれだけ勝って逃したPO、彼ら若手に早く経験してほしいですね

    1. あれくらい勝ててもプレーオフに出られないのはウエストの厳しさでした。若手トリオにライルズとMPJもいて活躍次第ではトレードに動くかもしれないですね。

  2. ナゲッツから2人くらいオールスター無理かなぁ。
    ヨキッチとマレーかハリス。
    それくらいの価値と個人成績を期待しています。

    1. 3人ともオールスタークラスだと思いますが、ウエストだと他のチームの選手を考えると難しそうです。快進撃でトップのチーム成績を残さないと選ばれるのは難しいでしょうね。

  3. 記事を読んでマレーのPGでもSGでもないモヤモヤがしっくりきました。
    西のウブルズにマレー型のガードがいれば面白そうですね。

    1. パスの本数なんかをみると、ちゃんとPGしてるのですが、得点やアシスト数ならSGっぽいですね。
      覇権を握るウォーリアーズだけでなく、ナゲッツが勝てるチームになると主流になる可能性もあります。

      カリーほどのシュート力となると難しいですが、マレーが基準なら他のチームも探したくなるでしょうね。

  4. はじめてコメントさせてもらいます
    簡単な言葉でしか伝えられませんがとても興味深い記事(?)でした

    SASのマレーの異質さにも目がいきがちでしたがどうやらこちらのマレーも周りのPGとはすこし違ったタイプの選手なのですね

    1. SASの方はスパーズらしさを身につけさせることと、ディフェンス優先のイメージです。こっちのマレーはディフェンスを頑張らないと。

  5. ナゲッツは個性的なチームに見えますが、実際はかなり昔のNBAのセンターの役割(真ん中に入ってパスを捌く)、ポストアップ(郵便受けのように手紙をさばく)というのを体現しているヨキッチが中心で、逆に言うとヨキッチがいるので長いボール所持時間のボールコントロールでチームのTOを減らす、以前のクリスポールやルビオ的なPGってヨキッチの良さとかぶってくるのでもはや不要に見えますね。だからマレーとハリスって身長もシュートレンジもほぼ同じSGを二枚用意して左右に置いたほうがいい。
    センター位置にボールを集めるという事は、両サイドを最も広く使えることも意味しますし、ハイポストに集めれば裏のスペースも出来る。だからシュートレンジがドライブ〜ロングまで広いペリメーターの選手がすごく相性が良く、ヨキッチ起点でSG一人がカットイン、もう一人はアウトサイドでDFがヘルプに行けば外に広げる。だから極端に左右のどっちかインアウトサイドのどっちか、フロントバックコートのどっちかに得点が集中せずにバラけさせることで防がれにくくしているように見えます。

    1. 昔のセンターというのではなく、トップの位置でもポストでもプレーメイク出来る両面を持ち合わせるヨキッチの特殊性で、しかもパスを捌くことが優先というのは昔のセンターとは大きく違いますね。
      あと、実はヨキッチがいなくてもゲーリー・ハリスがいると、同じプレーが成立するのでガード陣がちょっとした進化形だったりします。スプラッシュブラザーズもオフボールは上手いけど、ここまで単独で動かせる選手は珍しい。
      この2人の存在がチームに良い波及効果をもたらしてプラムリーもパスの上手さを発揮しているチームって感じです。だから時間をかけてきたことが重要だったような。今シーズンはスローダウンも多いので。

whynot へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA