EFGの話、ビッグマンの話、シューターの話。全てをひっくるめるとジャズが素晴らしいという結論になるのでした。
ジャズについて書くときに「現代戦術から乖離する部分がある」と表現します。それはどんなことかといえば
・オールラウンダーを集めていない(一芸さんがいる)
・機動力の足りない選手を有効活用している
今のNBAで強いチームはほぼオールラウンダーの能力を使っているのに対して、ジャズだけはイングルスという身体能力に欠けるシューターとゴベアーというペリメーターを守れないビッグマンがスターターに並びます。ついでに言えばルビオもまたゲームメイクのみに優れた純粋PGです。
そのオフェンスがストーリーだっていて、論理的である事は以前にも触れていますが、今回はゴベアーとイングルスに焦点を絞って考えてみましょう。便利なフェイバーズも少しは登場させようか。
◉スーパーエースとオフェンス力
言うまでもなくジャズはディフェンスのチームですが、今回触れるのはオフェンス面です。19勝28敗から48勝34敗まで辿り着いた後半戦の脅威は、各チームが恐れおののく結果ですが、その間のオフェンスレーティングは108.6もあります。
まぁ今のNBAだと真ん中よりも上程度ではありますが、十分なオフェンス力を有しています。
その中心にいるのはスーパーエースのドノバン・ミッチェル
とにかくディフェンスを破壊してしまう驚異的な突破力に、冷静な判断力が備わっているのだから困ってしまう。ドノバン・ミッチェルが少し違うのは「相手の強いところを壊してしまう」という部分です。本来はそこを避けて攻略していくのに、強みを破壊することでディフェンスは後手を踏み始めます。
1番記憶に残っているのは3/11のvsペリカンズ。
アンソニー・デイビスがその恐ろしさを見せつけ10ブロックでトリプルダブルを達成します。攻めても相手がゴベアーなので3Pをフリーで決め、スピードでぶん回して圧倒するのでした。
ドノバン・ミッチェルは前半は消えていました。後半もブロックの餌食になったところで、突然のラッシュを始めます。ドライブで切れ込んでダブルクラッチでアンソニー・デイビスから得点すると、ペリカンズお得意の速攻に対して、逆速攻で決め返します。
ここから一気にインサイドを攻略していき、ディフェンスが出てくればインサイドに合わせ、ヘルプでコースを塞ぎに来ればキックアウトし、最後はロング3Pで集中するディフェンスをあざ笑うのでした。
そんなわけで「スーパーエース恐ろしい」となるのですが、肝心なのはそこではありません。まだまだシュート力が甘いドノバン・ミッチェルはEFG50.6%と言葉で書くような大活躍とは思えない数字です。さらにジャズが快進撃をみせた後半戦に限るとEFGは50%を下回ります。
ジャズのチームとしてのEFGは53.9%もあったのに、恐ろしきスーパーエースはチームの足を引っ張るような確率なのでした。ぺりかんズ戦でもディフェンスを崩壊させる「きっかけ」を作ったのであり、後手に回ったディフェンスに対して周囲が得点していきました。
ジャズの快進撃をもたらしたのは、オフェンスの中心となったドノバン・ミッチェルの存在であることは疑いようがありません。しかし、そのエース自身は数字を落としていた。だからこそジャズというチームの優秀さを感じるのでした。
〇EFG
チーム 52.7%
ミッチェル 50.6%
ルビオ 47.6%
ジャズの特徴はハンドラーとしてプレーメイクする2人の確率が低いことです。これはありがちな数字ではあるのですが、だからこそサンダーはルビオに打たせて、そして失敗しました。そして、あの時も書いたけど作戦を継続すべきだったのに、次の試合からルビオを止めようとして大失敗しています。
ジャズのストロングポイントは
ドノバン・ミッチェルの突破力
ルビオのゲームメイク
この2点なのですが、実際には2人がシュートまで行くとそこまで確率は高くありません。本当に怖いのは、そこにディフェンスが引き寄せられることで発生するロールプレイヤー達の高確率にあります。
〇EFG
ゴベアー 62.2%
イングルス 60.9%
フェイバーズ 57.3%
ジェレブコ 56.2%
チームとしての効率性を上げているのは、こんな使い勝手が悪そうなメンバーでした。
例えばゴベアーは間違いなくゴール下では強いけど、シュート力もなければ、ステップワークもありません。タウンズに比べれば武器がないに等しいような存在です。しかし、だからこそ444本のアテンプト中372本がノーチャージエリア内でした。
〇ゴベアーのアテンプト数 444本
ダンク 164本
レイアップ 212本
※レイアップは普通にイメージするレイアップだけでなく、リングに押し込むようなシュート全般をカウントしていると思われます。ジャンプシュート以外は殆どレイアップ扱い。
フックすら28%しか決まらないゴベアーですが、本当にだからこそ「これしかない」という形のシュートを超高確率で決めているのです。それは1on1の勝負としては弱いけど、チームバスケでは非常にありがたい存在でもあります。ルビオとミッチェルがおびき出してのゴベアーほど強力なフィニッシュはありません。
ちなみにちゃんとダンクにいけるようにステップを踏む形を身につけさせているのもスナイダーの良い部分。昔のゴベアーはもっと余計なドリブルをしていたし、ボールを持って悩んでいたけど、ルビオとミッチェルの登場もあってシンプルにシュートに行けるようになりました。
ちなみにおびき出しが上手く行かないときや、シンプルなステップが踏めないディフェンスの時はフェイバーズの出番なのです。もっとスペーシングとタイミングが秀逸で、合わせるのが上手くて多彩なビッグマン
〇イングルスのディフェンスとの距離別3P確率
2f以内 アテンプトなし
4f以内 23.5%
6f以内 39.5%
6f以上 47.5%
素晴らしいシューターのイングルスは3P44%を決めたわけですが、ディフェンスの状況をみるとそこまで特別なシューターではない気がしてきます。あくまでもワイドオープンの状況でしっかりと決めただけで、「フリーなら高確率」という選手ですし、そこで47.5%というのもバディ・ヒールドには及ばない。
ただし、このワイドオープンがリーグで2番目に多い297本のアテンプトがありました。
つまりここでもルビオやミッチェルの存在感が活きてくるし、チームとしてイングルスを活かしきる形を取れています。特別な身体能力がないだけでなく、オフバランスでも決めきるようなシュートスキルがあるわけでもない。イングルスは
「フリーで確実にシュートを決める」
「常に周囲の状況を理解している」
という2つの能力でチームに高確率のシュートをもたらしています。ちなみにショートレンジやミドルレンジは40%を切っており、プレッシャーをかけられると苦しく、意外にもゴール下まで行くと65%近いので、ドフリーになるのが上手いタイプです。
フェイバーズがゴール下が73.5%なんてふざけた確率ですが、その理由もしっかりと崩すジャズオフェンスにあるわけです。なお、管理人はジェレブコの放出に否定的でしたが、3Pを決めてEFG56%のインサイドプレイヤーを放出するのは非常に勿体ないし、ウォーリアーズを強化してしまいました。せっかくウエストが引退してくれたのに。
◉組み合わせの美学
そんなわけでジャズについては美しいオフェンスと言いつつも、さらに「組み合わせの美学」が存在します。正直言って、ゴベアーもイングルスも単体で観るとそんなに怖くない。だけど、ルビオとミッチェルによって怖さが大きく増してきます。
オフェンスは最終的にシュートの効率性がものをいうわけですが「効率の高い選手を集める」というのは、当然の様でいて非常に難しいものになります。だからこそどうやって組み合わせるのかが大切になるわけです。
ロールプレイヤーの方が高確率
この方式は非常に重要です。ジャズの場合は「超高確率」にしてチームとしての連動力で効率性を高めています。それもゴベアーにしろイングルスにしろ「シュートパターンを絞る」ことで確率を上げているのです。
一芸さんみたいなメンバーを集めていると書きますが、逆に一芸にうまく絞っているともいえます。
問題が出てくるのは「組み合わせの美学」って、ベンチメンバーも含めてそこまで上手くは作り上げられないこと。そのため、ジャズのベンチはハードワークを厭わず、ディフェンスが良くて、3Pの打てる選手で固められています。要するにもっとオールラウンドなタイプばかりです。
このオフにイングルスの代役を獲得すべきでしたが、そこは上手く行きませんでした。ゴベアーも頻繁にケガするし、ちょっと不安の残るオフの動きだったと言えます。
まぁディフェンスが良いから、あまり関係ないのだけど。
シーズンが進むにつれて、ブラッド・スティーブンスを上回る有能性をみせてきたクイン・スナイダー。その中身はあまりにも論理的なチームの役割分担にあります。ディフェンスの良さをベースに置きながら、選手それぞれの特徴を最大限に発揮する形を非常に上手く作り上げてきたのです。
ドノバン・ミッチェルはMVP候補
そんなことを平然と書くのは、ミッチェル本人の素晴らしさだけでなく、それがジャズというチームで最大限に発揮され、ミッチェルを止めようとすればするほど、ジャズのオフェンスは効率的になっていくからでもあります。
「エースをどうやって止めるのか?」
ディフェンスがそんな悩みを深めていくほどに、ジャズはチームとして機能し、高いオフェンス力を発揮してしまいます。ならば真正面からドノバン・ミッチェルと対峙するしかありません。それでも高いオフェンス力を発揮するのかどうか。オフのトレーニング成果を発揮して貰いましょう。
ジャズとの対戦ではゴベアーとイングルスの止め方から考えるなんてことはしないけど、本当に止めなければいけないのはロールプレイヤー達というジャズでした。めんどくさいチームなのだ。
ゴベアーはPOは見てると意外と機動力もあるしペリメーターを守れるようになる素養を感じるんですよね。
ジャズはそこを求めてはないってだけで。
あんなに走っていた印象ないのですが、プレーオフは切り替えの速さが目立ちました。
アウトサイドシュートなんか不要だから、確実にショートレンジを決めて欲しい。
ドラフトルーキーのグレイソンアレンも
良いシューターだしハードワーカー。
ジャズにフィットする選手を取りましたね。即戦力になりそう!
あとは、大学時代からのダーティプレイヤーという位置づけを拭えるか。。。
グレイソン・アレンはどうなるのでしょうか。
ベンチから何かを生み出す選手が欲しいのでしょうが、ポジションのダボつきもあるので、どんな起用と役割になるのか?
仮の話ですけど、ゴベアがトリスタンでイングルスがJRスミスでもUTAは勝てると思いますか?
無理です。
オフェンス編はディフェンス編より長くなっていますし(話すことが多かったのでしょうか)、ロケッツやキャブスが強かったことを考えると今の時代ディフェンスよりオフェンスの方が重要なのでしょうか?
もちろんウォーリアーズはDが強いですし、過去の強豪もDが固いところか多かったと思うのですが、時代としてよく言われるようにディフェンスがオフェンスに比べて軽んじられてるのでしょうか?
オフェンス編の方が長かったのは前提条件が多かったというだけです。あとディフェンスは「スピード」が加わっただけで、重要なリムプロテクト能力は昔と変わりません。それに比べるとオフェンスの方が重要な要素が変わりました。
ロケッツはディフェンスの良いチームになって強くなり、キャブスは全てをオフェンスに振り切ってファイナルへ進みました。
どちらが重要という事はなく、ただオフェンスの方がデータを積み上げて考え易い利点があります。
イングルスのデータが面白いです。他のチームにいたら、今ほど3P%が高くはならないのかな。
選手の能力を最大限に引き出す、というのはスナイダーやGMが度々言っている気がします。土地柄FAの大物にアタックしても獲得が難しいので(GMまでそう公言しちゃってます)、現有戦力の有効活用が重要なのもあると思います。それに長けたHCなのはありがたいです。
スナイダーは「特定のプレイスタイルがチームにいる選手達にフィットしないのなら、コーチがそれを貫くことはできない」とも言っていました。DF重視を基本にしながら、現有戦力に合わせて柔軟にスタイルを変える方針でしょうか。ヘイワードが抜けて、いきなりルーキーがエースになるなんて思っていませんでしたし。ミッチェルの2年目が楽しみです。
ジャズのDF面のデータについても書いて頂けると嬉しいです。
ディフェンスやりたいのですが、データを集めるのが難しかったり、手作業で大変すぎて、あまり触れられないんですよね。
ルビオなんかでも時間がかかってしまったので、個人の良さを組み合わせるには、根気と細かい修正が必要で、ある意味それこそがユタという土地柄で仕事に取り組める良さなのかもしれません。
ルビオはこれまでの所属チームが地味過ぎて過小評価されてきた気がしますね。致命的に下手だったシュートも確実に改善してきているし。IQ、サイズ、DFもあるのでベテランになってもベンチから重宝されそう。オールスターに出て欲しいな。
ルビオもジャズでは役割を削った感じです。自分がアクションしてディフェンスを崩すのではなく、周囲が動いて崩すのに合わせて行くイメージ。ミッチェルやイングルスもいて、それが上手くハマった気がします。
ウルブズ時代はケガも多かったですし。
年明け以降の対GSW戦で3戦すべて大差で勝利したジャズですが
ジャズの強いインサイドが圧倒したからではなく
GSWのスター達の得点効率を、ジャズのロールプレイヤーが凌駕したからなのかなと、記事を見て思いました
ロケッツが7戦までいったのでGSW対策はオールスイッチDが唯一の解答だ!なんて言われてますが、比較的タレントを揃えやすいジャズの戦略のほうが真似しやすいから流行るかもしれない
プレイオフで当たらなかったのが非常に勿体なかった
シーズンで大敗した相手にカーがどのように対策を立ててくるのか、興味があります
来期は両者怪我無く万全の状態でぶつかり合って欲しいですね