コービーから出たアンテトクンポへの課題はMVP!
次代を担うスーパースターとしての道を突き進みモンスター化していきます。誰も止められないその能力と若いながらもチームプレーで結束するバックスのリーダーとして大活躍。
しかし、チームは4勝6敗と負け越しスタートです。その理由を探っていくのが今回のテーマです。
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大活躍してるアンテトクンポ。一方チームメイトは?
◯アンテトクンポ
得点 31.9
FG 60.1%
リバウンド 9.8
アシスト 4.8
大活躍のアンテトクンポ。特にFG%は素晴らしい。そんな選手を抱えていながら4勝6敗のバックス。他の選手がダメなようにも感じます。
「アンテトクンポが持ち過ぎて周囲のリズムが乱れている。」チームが勝てない時に言われるあるあるですが、アテンプト上位選手のFG%を見てみると
◯FG%
チーム 49.1%(2位)
ミドルトン 42.4%
ブログトン 50.5%
スネル 57.8%
全くそんな事はありませんでした。アンテトクンポに引っ張られ全員が高確率のバックス。特にPGでありながらブログトンは素晴らしい成績です。
◯ブログトン
得点 16.2
3P 48.8%
アシスト 4.9
ターンオーバー 1.8
今季はアンテトクンポに個人技で得点させているので目立ちませんが、ブログトンの存在はバックスのチームオフェンスのキーポイントでした。
フロアバランスを整え、チーム全体を操り相手の弱い部分をつくブログトンだからこそ高いFG%を誇ります。
超高確率のエースだけでなく、PG自身も高いFG%を残しながらチームをコントロールし、リーグで2番目の高確率オフェンスを構成させています。
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ブレッドソーの特徴
ブログトンがいるのでシーズン前にスコアリングPGであるアーヴィング獲得の話でも驚いたくらいで、ましてやブレッドソーは衝撃でした。
◯ブレッドソー(昨季の数字)
得点 21.1
FG 43.4%
3P 33.5%
アシスト 6.3
ターンオーバー 3.4
高い決定率をカラーにしているチームに、能力は高くても違う特徴の選手をいれると苦労するのは、ちょうどキャブスが直面している課題です。
先ずはバックスオフェンスを追いながらブレッドソーを欲しがる理由も探っていきます。
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FG%に見合わないレーティング
◯オフェンスレーティング 107.1(9位)
リーグで2番目に高いFG%にしては微妙なオフェンス力です。何か悪い部分があるのでしょうか?
◯アシスト率 62.3%(5位)
◯ターンオーバー率 15.1%(15位)
◯アシスト/ターンオーバー率 1.67(2位)
ターンオーバー率は高いものの、アシストを生み出すためのミスである事がわかります。トータルでみればリーグ有数の効率性に成功しています。
ちなみにアシスト/ターンオーバー率のトップはウォーリアーズですがターンオーバー率16.5%とバックスよりも多いです。
アンテトクンポ個人の突破に頼っているようで、実はチームでアシストして非常に効率的なオフェンスを構築しているのがバックスです。その分シュート前のミスは起こり得るという事でもあります。
◯オフェンスリバウンド率 15.6%(30位)
◯セカンドチャンス 7.4(30位)
悪いのはオフェンスリバウンド率です。セカンドチャンスを生み出せないバックス。ではインサイドを攻められないのかというと、それも違います。
◯ペイント内得点 46.6(7位)
◯ファストブレイク 9.9(15位)
バックスはチームオフェンスで組み立てるのが大前提のチームなので速攻はあまり多くありません。にも関わらず多いペイント内得点。バックスよりもペイント内の多いチームはほぼ走るチームです。
つまり、インサイドの得点は多いけど、オフェンスリバウンドはとれないし、セカンドチャンスポイントもない。
それがバックスです。
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バックスが狙っているもの
セカンドチャンスが少ないのは、そもそも高いFG%で決めきる狙いとトランジションディフェンス優先です。設計していないオフェンスリバウンド。
高いFG%を実現するために流行しているのは、スモールラインナップとストレッチ5です。つまりインサイドを空にして自由にアタックする方法。
前者の代表格はロケッツ&ウォーリアーズ。後者はキャブス&セルティックス。
◯2PFG%
ロケッツ 65.7%
ウォーリアーズ 62.6%
ラプターズ 60.8%
キャブス 58.6%
バックス 58.4%
FG2位のバックスですが2Pに限れば5位まで落ちます。上位4チームが3Pを乱れ打ちするチームなので、バックスは2Pの割合が多いためトータルでFG2位になっています。
他チームのように3Pで広げてインサイドのスペースを使うのではなく、あくまでも連動で崩します。
昨季はトライアングルのポストを利用して崩すイメージでしたが、ジャカリ・パーカーのケガもあり、少し方法を見直しました。
◯インサイド陣の出場時間とFGとオフェンスリバウンド
ヘンソン 20.2分 1.9/3.5 リ1.3
メイカー 16.8分 1.8/4.6 リ0.7
モンロー 15.9分 3.2/6.6 リ1.2
※モンローは5試合のみ
スタッツだけならモンローを放出する意味がわかりません。
基本はヘンソン+メイカーの37分しかセンターを使いません。ヘンソンはPFタイプだし、メイカーは3Pばかり打ちます。考え方はストレッチ5に近いです。2人を使い分けて戦術に幅を持たせています。
ヘンソンとモンローはFG%が高いだけでなく、オフェンスリバウンドを奪っています。チーム最多はアンテトクンポの1.6ですが、36分換算するとモンローは2.7、ヘンソンは2.3と実はそこそこ優秀なリバウンダーです。
そんな2人をあまり活用しないバックス。ちなみに昨季はモンローを中心にセンターを置いていました。
◯昨季との比較
FG 47.4% → 49.1%
オフェンスリバウンド 8.8 → 6.1
単にシュートが好調なのではなく、戦術変更して導き出された結果が高いFG%だという事がわかります。
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ノーインサイドシステムとアンテトクンポ
バックスの変化はノーインサイドシステム。結果としてとれなくなった、いや取るのを辞めたオフェンスリバウンド。
アンテトクンポの高いFG%や得点は実はこんなシステムに支えられたものでした。相手のセンターもインサイドにいないので、ドライブと高さが活きるわけです。
この先、得点が落ち始めた時は、アンテトクンポの調子下降よりもチームが方針を変更した時になると思われます。
なお、上記のチームの中で1番低いロケッツでもオフェンスリバウンド率は20%を超えます。つまり設計として諦めていませんし、3Pを活用する理由でもあります。
バックスは高いFG%があっても、それがリーグ最高レベルのオフェンス力までは辿り着けないシステム構成になっています。
単にオフェンスリバウンドがとれていないのではなく、求めているものが違うわけです。この先はミドルトンの3Pが改善することで得点を伸ばすくらいしかありません。
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「バックスは高いFG%の堅実なオフェンスをする。しかし、他を寄せ付けない圧倒的なオフェンス力とは言えない。」
これが1つ目のポイントです。
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ブレッドソーでの変化を狙う。
さらなる得点力アップのためにブレッドソーを獲得した事になります。ノーインサイドに自らドライブして得点する人材です。このタイプはアンテトクンポしかいないので、タイプとしては理にかなっています。
しかし、バックスの高いFG%システムに反するブレッドソーです。シュートが落ちてもフォローしてくれる選手はいません。単なるアンテトクンポの休憩時要員なら話も変わってきますが、それは許されないサラリーとプライド。
バックスのシステムは高いFG%を誇りますが、これ以上のFG%アップを狙うよりもシステムの変化をブレッドソーに求めたバックスでした。
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問題のディフェンス
バックスオフェンスの方向性とブレッドソーについて触れましたが、まぁそれでも十分なオフェンス力なわけで、勝てない要因は当然ディフェンスにあります。
◯ディフェンスレーティング 109.5(29位)
酷いディフェンスのバックス。前述の通りノーインサイドですが、ディフェンスリバウンドはしっかりと奪っています。
◯ディフェンスリバウンド 31.2(29位)
◯被オフェンスリバウンド 8.7(7位)
◯ディフェンスリバウンド率 78.3%(10位)
リバウンド数が少ないだけで弱いわけではありません。相手にオフェンスリバウンドを取らせない事は徹底しています。アンテトクンポがインサイドを守ればサボりやすいし。
では何故、リバウンド数が少ないかというと自分達もシュートを決めるけど、相手にも決められるからです。
◯ペイント内失点 40.4(5位)
◯被2PFG% 50.7%(20位)
◯被3PFG% 41.0%(29位)
何とも不思議なチームで、今度はインサイドはそこそこ守れてアウトサイドが守れません。ワイドオープンで打たせる回数が極めて多いというわけでもないのですが、やはりインサイド側を優先的に守ろうとする傾向があります。
3Pへのディフェンスはデラベドバ以外はかなり悪い傾向にあります。
◯被3P確率(被アテンプト順)
ミドルトン 39.1%
アンテトクンポ 45.5%
ブログトン 39.4%
デラベドバ 26.7%
特にアンテトクンポの悪さが目立ちます。本来はサイズがあるので抑えられるはずなのですが、リバウンドに意識が向いている可能性が高いです。
ちなみに小さいブレッドソーで改善するとも思えません。3試合だけですが驚異の65%を決められています。むしろ、アンテトクンポをセンターのディフェンスに回すのかもしれません。
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トランジションディフェンス
◯ファストブレイクの失点 5.8(1位)
断トツで少ない速攻での失点。オフェンスリバウンドをとれない代わりにハリーバックしているのがわかります。こちらもブレッドソーでどう変わるか怪しい数字です。ブログトンならやらせないけど。
全く関係ないですが、最近「オフェンスリバウンドとトランジションディフェンスの関係性」を論じている方の文章を立て続けに読みました。流行っている議論なのか?
NBAならば戻れが鉄則みたいですが、レベルが下がるほどリバウンドへ参加すべきとか。
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そんなわけで、ディフェンスはかなり安全策をとり、ハリーバックしてインサイドを集中的に守る傾向があります。その結果は3Pを高確率で決められるものになりました。
トレンドの3Pは昨季は平均アテンプト30本以上が6チームでしたが11チームに増えています。オフェンスの考え方が変わってきているので、ディフェンスも変えないといけません。
面白いのは攻守で価値観が逆になっている事です。
攻撃 高いFG%に価値があり、オフェンスリバウンドは不要
守備 高いFG%は許し、オフェンスリバウンドは許さない。
つまりキッドHCの目指す基本戦略は
・相手よりも高いFG%
・お互いに少ないオフェンスリバウンド
という事になります。アンテトクンポのFG%の高さを前提にした発想です。
速攻はキッドらしく大きな価値を見出しているからこそやらせたくないのかもしれません。最もバックスにはアンテトクンポ単独突破速攻があるため、相手の回数を減らせば上回れると計算しているでしょう。
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攻守を比較してみると
◯2PFG% 58.4%
◯被2PFG 50.7%
◯3P% 39.9%
◯被3P 41.0%
◯オフェンスリバウンド 6.1
◯被オフェンスリバウンド 8.7
◯被ターンオーバー 14.9
◯ターンオーバー 14.9
こうみると少しオフェンスリバウンドを取られすぎではありますが、8%上回る2Pで勝てる計算が成り立ちそうです。でも勝てていません。
実際に6敗のうち、3敗はFG%で上回ったのに負けています。ここにバックス流勝利の計算式に狂いがあります。
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大きく開くフリースローアテンプト
◯フリースロー 14.5/18.5 (27位)
◯被フリースロー 21.6/27.3 (28位)
フリースローだけで平均7.1点失点が上回ります。これがバックス最大の問題点です。
リーグ最少クラスのアテンプト数と、リーグ最大クラスの被アテンプト数です。
2P8%の差は約4.7点くらいのためフリースローで赤字でした。
ここまでの内容を検証するためにサンプルとして11月3日のピストンズ戦を観戦してみました。
なお、ピストンズの平均フリースローは
◯アテンプト数 18.1(28位)
◯被アテンプト数 20.7(11位)
という事でアテンプトは少なく、被アテンプトは普通レベルのチームです。どちらかというと自分達の方がシュートファールするチームです。
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ピストンズ戦
◯バックス ー ピストンズ
得点 96 ー 105
FG 47% ー 47%
3P 40% ー 31%
オフェンスリバウンド 7 ー 7
ターンオーバー 13 ー 12
3Pは多少バックスが上回るものの、得点に絡むスタッツはほぼ同じでした。つまりほぼ狙い通りのスタッツの勝ちゲームです。
違うのはフリースロー。
バックス 8/9
ピストンズ 23/28
ここで15点の赤字です。ドラモンドが14/16なんてビックリの確率ですが、ファールゲームされたわけではありませんでした。
ちなみにそのドラモンドは試合開始0秒のジャンプボールでファールし、早々にファールトラブルにもなりました。
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バックスに起こっている事
なぜここまでフリースロー数に差が出たのかを、ここまでの検証内容と合わせて説明します。つまり、バックスの戦術とフリースロー数に関係があります。なお、ピストンズの対策も関係しています。
高確率のFG%
13/27と約半分を決めたアンテトクンポ。マークのスタンリー・ジョンソンは高さで劣る事もあり上から打たれるのは諦め気味。その代わり中に入ってくるのは身体を張って止めました。アンテトクンポへの定石であるダンクは許さない守り方です。
時に抜かれた際にはブロックに飛べそうでも諦めていたピストンズ。明らかにファールはしない作戦でした。
ピストンズが中を固めるとチームオフェンスとして「確率の高いシュートを選択する戦術」のバックスですから、アンテトクンポのミドルシュートにキックアウトされた周囲のアウトサイドになります。
ブログトンの3/5を筆頭に40%決めたので戦術としては正しい判断でした。
「堅実なシュートセレクトによる高いFG%」を達成しましたが、
・強引なインサイドアタックをしない
・シュートファールを明確に避けたピストンズ
これにより結果的に得点は伸びませんでした。FG47%、3P40%では勝利に足りないってかなり恐ろしいです。
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インサイド優先でアウトサイドを守れない
ピストンズの3P31%なのでこの試合では抑えていますが、守れない理由は頻繁に起こるローテーションの穴。スイッチが早い事もあり常に何処かしらにフリーが生まれてしまっていました。
ハンドオフを使ってポジションを入れ替えているピストンズなので、3Pでのフリーは多くなかったですが、バックスのマーク受け渡しはグチャグチャになっていました。
前提にあるのはインサイド側に収縮している基本陣形にあり、そこからヘルプで外側に膨らむため、面白いほどにボール側にディフェンスが寄っていきます。
右サイドからドリブルでインサイドにペネトレイトの構えをしたら寄せてくるので左サイドはフリーです。全て一呼吸遅れるバックス。代わりにリバウンドはとれます。
後半になるとガードのドライブに対し早いヘルプで潰しに行きますが、その分空いたドラモンドへのパスが何度も通ります。ローテーションしないのでインサイドまで空きます。
そして遅れて集まってきてファールの繰り返し。
つまり、アウトサイドのフリー、インサイドのフリー双方ともにローテーションミスが絡み、特にインサイドをやらせない意識から遅れたディフェンスがファールしてでも止めます。戦術通りではあるわけです。
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極端に言えばアンテトクンポのダンクを許すピストンズとドラモンドのダンクを許さないバックスの差がフリースロー数の差でした。
フリーを作ってシュートを決めたバックスとディフェンスを攻略してシュートを決めたピストンズの差でもあります。
ちなみに次のキャブス戦も16ー33とアテンプト数に差が出ますがアンテトクンポが11本打っているのでキャブスとピストンズの対策の違いが大きく出ています。そしてラブが16本打っているのはバックスの戦略が変わらないからでしょう。
「フリースローアテンプトの差はバックスの戦術が生み出した結果」
これも重要なポイントです。
ちなみにピストンズが3Pを落としたためアンテトクンポの速攻という場面も出ていたので、中を固めて外から打たせる事自体の収支は悪くなかったりします。
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バックスが求めたのは効率的なチームオフェンスが生み出す高いFG%のオフェンス。その効率的なオフェンスと個人の正しい判断は結果としてフリースローを減らしました。
そしてセンターを減らしながらもインサイドでのイージーシュートを許さないチームディフェンスはフリースローを相手に与える事になりました。
キッドHCは「今のNBAは些細な接触でファールをコールしすぎる」と苦言を呈していますが、自分達のオフェンスが効率的だからこそコールされず、強引に攻めてくる相手にはファールが与えられる結果に苦言を呈したくなる気持ちは理解できます。
戦術変更し、戦略としては成功したのに、それが敗北を招く事になったのが今のバックスです。
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ブレッドソー再び
そんなわけでブレッドソーへの期待と不安はおそらくこんな感じ。
◯期待する事
・空いたインサイドへの果敢なドライブ
・適切なプレーを選択するチームの中で、個人でディフェンスを切り崩す役割
・フリースロー増
◯不安な事
・FG%の低下
・ディフェンス力低下
でも、ピストンズ戦では状況を察したブログトンが珍しく個人技でドライブなんて場面も結構ありました。本当に優秀な判断。
そしてジャバリ・パーカーが復帰すれば解決しそうな事ばかりでもあります。
戦術的に不要でサラリーの高いモンローをロスターに入れるくらいなら、賭けになるけどブレッドソー獲得という程度の考え方かもしれません。
ブログトンの弱点は速攻が出せない事なので、そこはブレッドソーが上です。
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あとがき
初めのイメージではバックスが勝てない理由は
・そもそもバックスなんてこんなもの
・チームプレー優先なのにアンテトクンポ無双させているから
この程度に捉えていました。
そしてスタッツみても「ディフェンスが悪いからだよね」という程度です。
それをオフェンスからデータを紐解いていき、戦略を想像してみると非常に面白い内容になったと思います。少なくとも書いてて楽しかったですが、まとめるのは大変でした。表現が難しかったので理解して頂ける事を祈るのみです。
フリースローの少なさが戦術から導き出された感は満載です。相手からするとアンテトクンポ無視作戦が最も効果的に見えます。それはオフェンスに自信があるチームじゃないと出来ませんが。
バックスの試合を観ているとモンローは絶対に使った方が良いのですが、こう紐解くと戦術の問題という事です。高給取りニートになりそうなモンロー。今シーズンだけでもBリーグは獲得に動きましょう!!