スティーブ・カーとダントーニ 前編

HCの評価というリクエストを頂きましたが、まとめるのが簡単ではないのと各チームのプレビューでそれぞれに触れていく事にしました。
ただ思うところあり、この2年でコーチオブザイヤーを獲得したスティーブ・カーとダントーニについて触れたいと思いました。

そんな事を書いていったら長くなってしまったので前後編に分かれます。そしてこの前編はデータとかはなく、ほぼ前提条件を書いているので、退屈な内容になってしまいました。

後編だけ読んでも良いように書いたので、読んでてかったるくなったら飛ばして頂いても大丈夫です。

スティーブ・カーへの疑問

スティーブ・カーには常々疑問がありました。

ウォーリアーズの戦術は非常によく練られていて、所属選手にも合っている上で、選手の能力も引き出しています。カリーは元々あんなプレーをしていたけど、それを戦術の中で強く輝かせたのはスティーブ・カーです。

その戦術でウォーリアーズは圧倒的であり魅力的なチームになりました。フロア全体を使って走り、どこからでも積極的に打ち、効率的に得点していきます。ディフェンスは前任のマーク・ジャクソンにもたらされましたが、それをシステムとして組み込む巧さもあります。

ウォーリアーズはNBA全体に大きな影響を与え、リーグ全体の試合のペースが変化するほどでした。

しかし、スティーブ・カーの選手としてのイメージはフィル・ジャクソンのブルズ時代とポポビッチのスパーズ時代です。どちらも一世を風靡しましたが、ウォーリアーズとは根本の部分が違い過ぎます。

前者はジョーダンありきだし、後者はダンカンありきだし、そもそも共に堅実にセットしたハーフコートオフェンスを好みます。カー本人は他の選手にマークの意識が向き自身のシュート力を活かせたチームではありましたが、若きカリーやドレモンド・グリーンは否定されそうなシステムで現役時代を過ごしています。

逆にいえば走ってボールを回して早いベースで、インサイドが空いていても外から積極的に打っていく。そんなウォーリアーズオフェンスは選手・カーはハマらなそうです。

スティーブ・カーは一体どこからこんなオフェンスのエッセンスを学んできたのでしょうか。コーチ経験もないし、独自に編み出したにしては細部が練られ過ぎています。

そもそも独自に編み出すようなタイプの人物なら、引退して直ぐにコーチ業を志したはずです。
なぜこんなオフェンスを思いついたのか?それがスティーブ・カーへの疑問でした。

復活したダントーニシステム

その疑問はロケッツが使い物にならない欠陥品として倉庫の奥にしまわれていたマイク・ダントーニをHCに据え、ハーデンしかスターがいないチームを躍進させた事で解決しました。

スティーブ・カーの戦術アイデアはダントーニシステムだったのです。気持ちの良いくらい晴れやかに疑問が解決しました。

ダントーニが猛威を奮ったサンズ時代のGMがスティーブ・カーでした。選手を集めチームを構成する立場からダントーニと密接な関係があったはずです。

単にダントーニシステムを理解しただけでなく、その問題点や解決策を思考する立場にあり試行錯誤したはずです。何せ最終的にサンズでは走れるマリオンと走れないシャックをトレードしダントーニ体制は終わりを迎えました。この経験はドレモンド・グリーンを助けているはずです。
ダントーニといえば7秒オフェンスであり、3P乱れ打ちです。その点が強調され、プレイオフで勝てない要因とも位置付けられてきました。

一方でそれは同時に多くのチームに影響を与え、3Pを積極的に打つ傾向はリーグ全体に広がりました。カリー&トンプソンはそれを世界に広めたけど、戦術的にはダントーニ以降の流れです。

しかし、3Pを積極的に取り入れるチームは多いけど、それが戦術レベルで勝つための方法論として機能性を持っているチームはあまりありません。
フォーメーションとしてアウトサイドに構えボールが回ってきて打つ。それはフォーメーションであって戦術ではありません。対してダントーニは得点するためではなく、ゲームトータルで効率的にするために打たせています。

それを進化させたのがスティーブ・カーのウォーリアーズです。両チームが何を目指しているのかに触れたいと思います。
戦術の捉え方と評価基準

その前に前提として管理人が戦術をどう捉えるかとどんな評価基準があるかを書きます。まずは本ブログで使う言葉を定義します。

「戦略」
試合に勝つためにとる作戦です。自分達の強み弱みがあり、相手の強み弱みがあり、対応策があり、と考える事はいっぱいです。長期間両チームをみないとわかりません。

「戦術」
チームが何を強みとし、どうやって勝つのかベースとなる考え方です。一定期間チームをみないとわかりません。時には試合よりもデータが示してくれます。

「システム」
戦術を実行するために試合を通して行われるチームの行動です。戦術を選手にカスタマイズされたものでもあります。試合の中で何度も再現されるパターンを指します。
数試合チームをみないとわかりません。

「セット」(フォーメーション)
誰をどこに置いて、ここでスクリーンかけて、とかの実際に試合でやっている定められたフォーメーションセットです。ゲームの一部分を切り取ればわかります。

大体こんな感じで言葉を使い分けています。まぁイメージなのでちょくちょく間違えてますが、気にしないでください。

ウィザーズで例える。

直近にプレビューしたウィザーズで上の定義を例えます。

「セット」
・ウォールのドライブへのクリアスクリーン
・ビールへのオフボールスクリーン

ウィザーズが行なっている代表的なフォーメーションです。これを「セット」と定義します。

「システム」
・ウォールを活かし、ウォールに活かされるシステム
・高い決定力を誇るシューター陣の活用
・ミドルラインをウォールがプッシュする速攻

試合を通して「セット」が繰り返されてくるとチームの仕組がわかるようになります。それが「システム」です。
システムは当然1つではありません。ディフェンスにもシステムがあるし、ウィザーズならウォールを使った速攻もシステム化されています。

 

「戦術」
・速攻と高確率のシュート力を活かして得点力で上回る

そんなシステムでどう勝つのか。それが戦術です。ウィザーズはシステムの考え方は変わらないけど新HCでここが明確になったから選手は迷わずに得点に注力出来た面が大きかったです。

「戦略」
戦略は相手と自分達の力量を見定めてとる作戦でもあります。プレイオフだとマッチアップを調整したり、相手の弱点を突いたりします。ウィザーズはあまり得意ではありません。逆にセルティックスはウォールにはドライブさせて逆速攻を合わせたり、序盤を低調なペースにされたりと仕掛けられています。

こんなイメージです。ウィザーズが優れているのはシステムの部分で、
・ウォール用システムと
・シューター用システムが
組み合わされて同時に存在していることです。それはまた「オフェンスで勝つ」という戦術コンセプトに明確に当てはまります。

スコット・ブルックスがもたらしたものは、明快な戦術と戦術に即したシステムでした。だから評価しています。

トライアングルオフェンスで考えてみる。

もう1つ例示。ブルズのトライアングルオフェンス。そしてフィル・ジャクソン。

「トライアングルオフェンスは超難解で理解するのは極めて難しい。」

そんな事を詳細は分厚いマニュアルの存在を知る人がコメントする事があります。管理人も「セット」という視点ではよく知りませんし、量が多くて理解しきれないと思います。でも「システム」という側面では別に難しくないと思います。

ロバート・オーリーは言いました。
「トライアングルオフェンスなんてオシャレな名前をつけてつけているだけでNBAの50%のチームがやっているのと同じだ」

フィル・ジャクソンによりニックスはトライアングルを導入しますが、全く上手くいきませんでした。その事についてルーク・ウォルトンは言っています。

「ニックスはトライアングルの形を取り入れているだけで本質が違う。真髄はディフェンスを読んでプレーするためのシステムだ」
つまりトライアングルオフェンスは「セット」ではなくて「システム」です。それはディフェンスに合わせて動く事であり、味方同士で意思共有するためのシステムです。
相手ディフェンス5人の対応を見て動く事も難しければ、味方5人が意思共有してコート全体で対応することはもっと難しいです。だからトライアングルでコートを半分にして、3人で行うように簡単にしたのがトライアングルオフェンスです。

「意思共有を簡易にし、ディフェンスに対応し易くしたシステム」
管理人はそう捉えていますし、その点では優れています。

ニックスで機能しない理由

なぜトライアングルが上手くいかないかというと、単純に今の選手が育ってきた環境が違う面があります。代表的なのはポストアップから始まるオフェンスを子供の頃から経験してない可能性がある事です。

そんな理由もありますが、今回はシステムのお話。システムの面では大きく2つの問題があります。

1つはマイケル・ジョーダンがいない事。
・トライアングルシステム
・ジョーダンシステム

この2つが同時にコートにある事が厄介です。意思共有出来てる3人がディフェンスを読んで動く、その逆サイドではジョーダンが仕掛ける。
かつてパット・ライリーは「ジョーダンをスーパースターにしろ」という戦略を使いました。トライアングルは止めろ!という事であり、止められるという事です。

もうひとつはニックスは「セット」としてトライアングルオフェンスがあってもそれが「システム」と「戦術」に結びついていないからです。

「強固なディフェンスで失点を抑え、的を絞らせないオフェンスで確実に得点し、最後はジョーダンが仕留める。」
それがブルズでした。極論いえばトライアングル使って接戦に持ち込めばジョーダンがなんとかしてくれるわけです。
現代の選手達に合わないというのは、この戦術の部分が足りないからです。効率的に得点するだけなら早い展開の方がより優れています。トライアングルが戦術コンセプトから導入されていないことも問題です。

キッドHCのバックスは「ユーティリティ性を活かし、高度な判断力で勝る」という戦術コンセプトを採用し、トライアングルのセットも選手に受け入れられています。その前提として複数ポジションが出来て、バスケIQの高そうな選手を好みます。

ニックスはチーム設計もHCの指導も戦術面での考慮が足りないと思います。ぶっちゃけ勝てるならトライアングルだってなんだって受け入れられます。

フィル・ジャクソンで評価する事

そんなわけで管理人はトライアングルオフェンス自体はあまり評価していません。しかし、フィル・ジャクソンが使うトライアングルオフェンスは評価しています。
そこにはフィル・ジャクソンの根本的な考え方があります。彼は性善説の人物で、ベンチ入りメンバー誰もが活躍できる選手だと信じています。それを助けるのがトライアングルオフェンスです。

その発想はスティーブ・カーの中にも生きています
トライアングルオフェンスは選手よりもフィル・ジャクソンに合ったシステムだったと捉えています。

 

似たような事はポポビッチにも言えます。スパーズからは謎の若手選手が現れて活躍する事があります。直近ではシモンズです。

ポポビッチからは性善説は感じられませんが、それでもプレータイムマネジメントに厳しい面など選手の力を最大限発揮する方法論に長けています。
こちらもスティーブ・カーから感じられる事です。ファイナル第5戦の緊迫した場面でもマコーがアーヴィングをマークするなど、中心選手を酷使することよりもベンチを信じる事を選びます。

HCやチームで評価するもの

よくセット(フォーメーション)を語り評価する人もいますが、NBAレベルなのでどれが優れているとかはないと思います。
戦術としてどう勝とうとしているか、それがシステムとして機能しているかが重要です。

また戦術が複数あるチームは応用性が高く高評価ですが、多いだけで熟練されてないのも問題です。戦術が同じでもシステムが複数あるのも効果的です。
・同じシステムの中で複数の戦術を使いこなす
・複数のシステムを同時に存在させた練り上げられた戦術
こんな感じのものを評価します。

ダントーニシステムに戻る

ダントーニの話なのに、全く触れていません。冒頭に3P乱れ打ちや7秒オフェンスがフューチャーされていると書きました。
これらはセットとシステムの中間くらいです。それはダントーニの真髄ではないと捉えています。

3P40%と2P60%は価値が同じ

今では常識でしかない考え方ですが、ダントーニが一般的になってきてから分析された発想かと思います。

これをNBAで最も使っているのはロケッツとキャブスで、ハーデンとレブロンからプレーが始まる点も同じです。そこまで同じだけど、ダントーニシステムの中でハーデンが躍動しているロケッツとレブロンシステムのキャブスなので中身は全く違います。

つまりセットは似ていても、システムも戦術も非なるものです。
逆にセットは全く違うもののシステムや戦術ではロケッツとウォーリアーズは近しいものがあります。

後編ではダントーニシステムとは何か?を考えながらスティーブ・カーに触れたいと思います。
そんなわけで管理人の考え方を書いただけの前編になってしまいました。まぁでもこの考え方の整理は評価の根底でもあります。

個人的に夜に中学校の体育館を借りて社会人バスケをしているのですが、壁やホワイトボードに中学部活のフォーメーションや目標が書いてあるのを見かけます。そこにはセットばかり書いてあり、それがちゃんとシステムや戦術になっているのか極めて疑問です。
少なくとも何のためにそのセットをしているのか説明出来ないと、ただ言われたままに動いているだけになります。
長々と書きましたが、データがないと非常に読みにくいと思います。それでも最後まで読んでいただきありがとうございました。

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