今回の内容は入門編というのは少し違うかもしれません。現代NBAの潮流をみるのがテーマです。
「3P」と「高速化」は大きな特徴ですが、NBAを普段から見ていた人にとっては普通すぎて語るほどの意味がありません。それは様々な場面で変化が起きているのでひとつにまとめて書くのが難しくもあります。
そんなわけで潮流をみるということで、角度を変えながらみていきたいと思います。今回のテーマは
PGとPF
この2つのポジションを比較します。本当はポジション時代をみる記事を先に書いていたのですが、少し狭めて考えてみましょう。
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◉宇都直輝を考える
きっかけは先日の日本vs韓国の試合の感想にあります。管理人はわりと宇都推しなのですが、感想検索しているとこんな意見が見受けられました。
「宇都は3Pが打てない欠点が大きい」
「ドライブしてからのターンオーバーが多い」
さて、この点についてはNBAを観ている身としてはちょっと悩んでしまいます。それって欠点なのか微妙なラインだよね。シクサーズファンならなおさらそう思うのではないでしょうか。そういうタイプというだけなのでは?
今回は後者に触れないのですが「ドライブしてインサイドで潰される」というのはNBAのスターPGでも結構あるシーンなんですよね。むしろ3P時代の視点からすると
ディフェンスが収縮しているならキックアウトしろ
というのが基本ラインです。パスが出来ないのか、それともアウトサイドの合わせが悪いのか。1on1で止められるのはNGですが、ドライブまで出来ているなら悪いのはPGなのか周囲なのかはチーム次第です。まぁ日本代表はそこまで出来ていないので、本人が悪いと言うことになるのでしょうが。
そんな宇都直輝のシーズンスタッツを観てみましょう。本当はNBAのデータを分析するブログなのですが、レベル差とか無視してNBAウォッチャーの常識で考えましょう。
59試合 17.0点 FG45% 3P22%
7.7アシスト 4.7リバウンド 3.0ターンオーバー
確かに3Pは決まりませんが、そもそもアテンプトが平均0.6本しかないので、単に打たない系のPGです。そう考えるとFG45%は低すぎます。7.7/3.0のアシスト/ターンオーバー率は悪くないレベルです。
結論的に言えばターンオーバーが多いと言うよりも、シュートの成功率が低いのが問題です。どんなシュートが多いのか分からないけど、
3P打っていないならFG50%は超えようぜ!
ドライブで引きつけてアシストは出来ているぜ!
本当に出来ているかは知らないけど、NBAウォッチャー的にはデータだけで受ける印象はこんな感じなのでした。
実際の宇都のプレーに関しては討論するポイントではないので無視します。
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◉3PのないPG
そしてこのタイプの最高傑作みたいな選手が新たに出てきています。
ベン・シモンズ
全く3Pは打たないけどFG55% 8.2アシストしてしまった3P時代を壊すPGです。
一方でシクサーズはPGとCを中心にしながらシューターのチームです。そこにいるPFはサリッチという3Pの上手い選手です。いや、ここまで確率上げてくるとは思いませんでした。シクサーズが成功した理由はサリッチが確率を予想以上に上げたことです。
要はシモンズがドライブして高確率でインサイドフィニッシュするし、その前提にあるのはサリッチやエンビートまで3Pを狙えることです。コートを広く使い、シモンズへのディフェンスヘルプを許しません。ヘルプがくると空いているスペースに飛びこんだり、キックアウトで3Pを打っているシクサーズでした。
先日の日本代表戦で気になったのは、コーナーから全く打てないこと。それによりスペースが消えていることでした。
まぁ八村とファジーカスいれたらそうなるよね。しかもプレーエリアが被りまくり。一体、何処にドライブすれば良いのか、そしてどこにキックアウトすれば良いのか。まぁ敢えてトライしているっぽいから本番ではもっと整理してくるだろうけど、ラマスの評価を落とした試合でした。
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「ドライブ決めたければインサイドにスペース作れ」なんてのは時代としては常識も常識です。
それを検証する1つとして、今回は各チームのスターターPGとPFの3Pを並べてみる企画です。ただ、PGはともかく「誰がPFか」って結構難しい時代なんですよ。
だからそこはまぁ管理人が適当に選びました。ナゲッツはヨキッチ、ホークスはイリャソバとか判断が難しすぎる案件が多かったのですが、プレータイムが長い選手から選ぶようにしています。クリッパーズのPGは難しすぎて短いテオドシッチにしましたが。いずれにしても他意はなく選ぶようにしています。
そしてNBAではPGが3P打たない系のシモンズはレアかというとそんな事はありません。全く打たないのはレアですが、少ない選手はわりといます。まずはPGのアテンプトが少ない組み合わせを並べてみます。アテンプト2本以下でチョイス。
チーム | PG | 試投 | 成功率 | PF | 試投 | 成功率 |
シクサーズ | Ben Simmons | 0.1 | 0.0 | Dario Saric | 5.1 | 39.3 |
スパーズ | Dejounte Murray | 0.4 | 26.5 | LaMarcus Aldridge | 1.2 | 29.3 |
ニックス | Jarrett Jack | 1.4 | 29.1 | Kristaps Porzingis | 4.8 | 39.5 |
マジック | Elfrid Payton | 1.5 | 37.3 | Aaron Gordon | 5.9 | 33.6 |
※切れている場合は↑をスクロールしてください。
ニックスとマジックが戦術的にシクサーズと同じになります。マジックは全員が3Pを狙う中で逆にPGはアテンプトが少なくなりました。チームとしての考え方はシクサーズに近いです。ニックスはそもそもチームとして3Pが少ない中で、ジャックの役割はゲームメイクに徹することでした。
スパーズはオルドリッジにしましたがカイル・アンダーソンも打たないし、どっちのパターンでも一緒です。ただ代わりにガソルは打ちますが。またPGもミルズなら打つので選手の個性を組み合わせた考え方ですね。
逆にPFが打たないチームを並べてみましょう。
チーム | PG | 試投 | 成功率 | PF | 試投 | 成功率 |
ホーネッツ | Kemba Walker | 7.5 | 38.4 | Michael Kidd-Gilchrist | 0.0 | 0.0 |
ウルブス | Jeff Teague | 3.3 | 36.8 | Taj Gibson | 0.4 | 20.0 |
ジャズ | Ricky Rubio | 3.5 | 35.2 | Derrick Favors | 0.8 | 22.2 |
ネッツ | D’Angelo Russell | 5.8 | 32.4 | Rondae Hollis-Jefferson | 0.8 | 24.1 |
驚くことにスパーズを含めても5チームしかありません。PGが2本打たないチームとPFが2本打たないチームってあまり差がないわけです。しかもこの中で本当に打たないのはホーネッツとウルブスの2チームだけです。
ジャズはフェイバーズは試合の中でメインはセンターとしての起用で、ジェレブコやクラウダーというシューター系がPF役の時間があります。フェイバーズが打つのはゴベールと同時起用の時だけです。ネッツはロケッツに次ぐ3P多投チームで、チョイスしたホリス・ジェファーソンが打たないだけで全員が打ちます。
3Pを打たないシモンズをレアキャラとするならば、3Pを打たないギルクイストもレアキャラなわけです。「シモンズは3Pを打つべき」というならば「ギルクイストは3Pを打つべき」でもあります。どちらかというと珍しいのはギルクイストなのでは疑惑すら沸いてきます。
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◉PGとPFの3Pは同じ価値
ここで今回チョイスしたPG、PFの合計値を観てみます。
【PG】
アテンプト 4.3本
成功率 36.2%
【PF】
アテンプト 3.7本
成功率 36.5%
本数こそ0.6本PGが多いですが、ボールを持つ時間を考慮すると0.6本しか差がないのは驚きです。PFは基本的にパスが回ってこないとシュートを打てないのですが、それでも差が出てこないのでした。
そして確率の方は僅かにPFが上回ります。キャッチ&シュートが多くなるでしょうから、当然と言えば当然ですが、要は単に確率だけを比べれば現代的には
PFはPGくらい3Pの確率が高い
というのが一般的になるわけです。前述の通り「宇都が悪いのか周囲が悪いのか」という視点で言えば、PF役が40%くらい決めてくれないとねという部分もあるわけです。
ちなみにカリーが1人で平均を大きく変えるから困ってしまいます。
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では次は下手な選手を並べてみましょう。成功率の低い選手達。まずはPGが下手なチームから。なお、もうわかっているシクサーズ、スパーズは除外します。
チーム | PG | 試投 | 成功率 | PF | 試投 | 成功率 |
サンズ | Tyler Ulis | 2.1 | 28.8 | Dragan Bender | 3.9 | 36.6 |
ホークス | Dennis Schroder | 3.9 | 29.0 | Ersan Ilyasova | 3.7 | 35.9 |
ニックス | Jarrett Jack | 1.4 | 29.1 | Kristaps Porzingis | 4.8 | 39.5 |
サンダー | Russell Westbrook | 4.1 | 29.8 | Carmelo Anthony | 6.1 | 35.7 |
レイカーズ | Lonzo Ball | 5.7 | 30.5 | Kyle Kuzma | 5.6 | 36.6 |
キングス | De’Aaron Fox | 2.1 | 30.7 | Zach Randolph | 2.5 | 34.7 |
ピストンズ | Reggie Jackson | 3.8 | 30.8 | Tobias Harris | 5.8 | 40.9 |
マブス | Dennis Smith Jr. | 4.9 | 31.3 | Harrison Barnes | 4.3 | 35.7 |
こう観ると両方が下手なのはキングスのフォックス&ランドルフくらいです。ここもオールドタイプのチームです。とはいえランドルフも酷い確率というわけではないし。
まぁチームの中から誰を選ぶか次第なんですけどね。ロンゾ&クズマというチョイスもちょっとズルいか。ランドルなら打たないけど、ロペスが打つから許してね。
確率が低いのに打ち過ぎのロンゾとスミスjr、ウエストブルックは抑えるべきだよね。もっとパス回せよ。
次は逆パターンでPFが下手なチーム。ホーネッツとスパーズは除く。
チーム | PG | 試投 | 成功率 | PF | 試投 | 成功率 |
ウルブス | Jeff Teague | 3.3 | 36.8 | Taj Gibson | 0.4 | 20.0 |
ジャズ | Ricky Rubio | 3.5 | 35.2 | Derrick Favors | 0.8 | 22.2 |
ネッツ | D’Angelo Russell | 5.8 | 32.4 | Rondae Hollis-Jefferson | 0.8 | 24.1 |
ウォーリアーズ | Stephen Curry | 9.8 | 42.3 | Draymond Green | 3.7 | 30.1 |
ヒート | Goran Dragic | 4.0 | 37.0 | James Johnson | 2.5 | 30.8 |
ペイサーズ | Darren Collison | 3.0 | 46.8 | Thaddeus Young | 2.2 | 32.0 |
ちなみに32%以下でチョイスしているのですが、出てきたチーム数が同じでした。PGとPFにとって3Pは同じ価値なのさ。
ディアンジェロ君が決めてくれないからネッツは勝てないわけで、ルビオ君が決めなくてもパス回して決めさせるジャズとはちょっと意味が違うね。
それを除くとPGにシュートの上手い選手が並びます。ペイサーズは異常。PFがシュート下手ならばPGには上手い選手を獲得する必要がありそうです。ここは逆パターンよりも納得性があります。
PFが決めるタイプのチームは
「PGがドライブしてインサイドを攻め、ディフェンスが寄ってきたらPFにキックアウトする」
PGが決めるタイプのチームは
「PGが3Pでアウトサイドに広げ、インサイドをPFが攻める」
この大前提を元にしたら、そもそも「PGがインサイドを攻めるよりも3Pが上手い」というのは戦術的な違いとして論理的です。逆に言えばドレイモンド・グリーン以外はインサイドを攻めていく系のPFです。ドライブを中心に考えていないわけですね。グリーンは3P打ち過ぎ。
まぁヒートコンビは両方がドライブしていくのですが。
成功率順に並べてもなかなか興味深い関連性がありました。様々なタイプの選手がいるなかで、PGとPFのタイプを調整することは重要かもしれません。まぁウエストブルックにストレッチ4を合わせて何故か失敗するサンダーみたいな例もありますが。
相関関係で言えばPGとPFにとって3Pは同じ価値、もといインサイドとアウトサイドを効果的に攻めるためにはPGとPFの関係性は重要なのではないでしょうか。
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◉3P時代を考慮しよう
最後にコンビで確率の高いチームを並べてみましょう。
チーム | PG | PF | 成功 | 試投 | 成功率 |
セルティックス | Kyrie Irving | Al Horford | 4.1 | 9.9 | 41.4 |
ペイサーズ | Darren Collison | Thaddeus Young | 2.1 | 5.2 | 40.4 |
ウォーリアーズ | Stephen Curry | Draymond Green | 5.3 | 13.5 | 39.3 |
ラプターズ | Kyle Lowry | Serge Ibaka | 4.5 | 11.5 | 39.1 |
ロケッツ | Chris Paul | Ryan Anderson | 4.5 | 11.6 | 38.8 |
ホーネッツ | Kemba Walker | Michael Kidd-Gilchrist | 2.9 | 7.5 | 38.7 |
キャブス | George Hill | Kevin Love | 3.4 | 8.8 | 38.6 |
グリズリーズ | Tyreke Evans | JaMychal Green | 3.0 | 7.8 | 38.5 |
シクサーズ | Ben Simmons | Dario Saric | 2.0 | 5.2 | 38.5 |
ナゲッツ | Jamal Murray | Nikola Jokic | 3.5 | 9.1 | 38.5 |
ホーネッツとグリズリーズという例外がいますが、全般的には勝率の良いチームが並んでいる印象です。当たり前と言えば当たり前ですが、ペイサーズやシクサーズのようにアテンプトが少ないチームも混じりますし、ラプターズやウォーリアーズみたいにPFの方はシュートが下手な選手も混じります。
要はやっぱり上手くチームとして効率的なバランスをとれているかどうかというのが重要なわけです。
PGとPFだけで考えるのはムチャなので偶然の要素も多分に含みながら、ひとつの特性は出ている気がします。
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NBA入門編として3P時代を考えるのがテーマなのですが、ポジション毎に考えた時に1番大きな変化をしていそうながPFです。しかし、PFだけ捉えると「3Pを打つ選手が増えた」くらいになってしまいますが、PGとコンビで考えてみました。
インサイドを攻略するためには、ディフェンスの人数が少ないというのが効果的ですが、そのためには3Pで広げるわけです。それはPGが広げるのか、PFが広げるのかチーム次第なわけです。
そもそも最早PFなんてポジションの考え方自体が時代遅れで、状況によってインサイドに強いウイングを起用するという程度です。オフェンスではコートを広く使うためにどうするべきなのか、そんなことを考えなければいけないのでした。
日本代表の話に戻ると宇都というドライブ中心で3Pが少ないPGに違和感を感じるか、ドライブしてからのキックアウトの少なさに違和感を感じるかは、普段見ている試合の違いになる気がします。NBAウォッチャーとしてはインサイドの狭さの方が気になる試合だったのでした。
「インサイドが強くなったからアウトサイドが活きる」というのは正しいけど、それは「PFとCが強くなったからガードが活きる」という意味ではなく、誰かがインサイドで誰かがアウトサイドになるだけでした。PFがアウトサイドを打つというよりも、よりオールラウンドな能力が求められるということです。
こんな感じで3Pが増えた中でどんな違いが生まれているのかは、何回かに分けて触れていきたいと思います。それは様々な違いがあって、ひとつに定義するのが簡単ではないからであり、戦術的な多様性があるから合わせ方はいろいろだということなのでした。
チーム単位で観れば大きな違いがあるポジション毎の役割ですが、俯瞰的に観ればPGとPFにとって3Pの価値は同じくらいだったというのが今回の結論なのでした。
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最後に宇都直輝のハイライトをみてみたよ。キックアウトしてないけど、13番のチャップマンとの相性が良いみたいね。45番のピットマンがコートにいるときといないときのプレーの違いが現代的かもしれません。
すいません、長文になりそうなのですが、改めて基本を質問させてください。
スリーと高速化についての質問なのですが、その背景として
①入るなら2点より3点の方が強いに決まっている、40%決められれば2点60%と同じ
②相手のディフェンスが戻りきってしまう前にシュートをした方が確率は上がる
という理由が僕の認識なのですが(不足ありましたらすいません)、
そもそも大前提としてスリーは2点より決まる確率が低いわけですよね。
ロケッツが今年の第7戦で20本以上スリーを連続で外したという話を聞いて思ったのですが、相手のディフェンスが戻り切る前に打つならレイアップで良くないですか?
スリーを狙って外すなら少しでも確率の高い2点のほうが価値はあると思ってしまうのですよ。
自分の中でもまだいまいち言いたいことがまとまり切ってないのですが、たしかに3点は強いけどそれより確実かつハイペースに2点を取ってくるチームの方が強いのでは?と思うのですが、どうでしょう。そこにGSWとHOUの差もあるのではと思うのですが。
横からですけど速攻だったら2Pで良いはずです。
3Pと高速化は独立した話で、速攻で3Pを打て、とはならないと思います。
速攻は基本的にインサイドまで行って打ちますね。
両チームが3Pを積極的に打っていくのはアーリーオフェンスですね。
ディフェンスが4人戻っても、1人が戻っていないなら3Pでもインサイドでも良いからフリーを作って打ってしまうチーム力があります。
まぁカリーとトンプソンは3対1でも外から打つことがありますが。
➀は少なくとも両チームはその考え方ではないと思います。やっていることは3P40%は2P60%と同じという考え方ですが。
これは次回以降の課題にしましょう。
➁は戻る前にフリーで打てだと思います。そして単にロケッツが外して、ウォーリアーズが決めたというだけです。両チームにその部分で大きな差はありません。
ロケッツはウォーリアーズよりも高い確率で2Pを決める唯一のチームです。共に確実かつハイペースに2点をとるために3Pを打っているチームだと認識しています。
他のチームは単に3Pを打っているだけの事もあると思うので、そこが強さの秘訣かと。
この概念、ウォリアーズがPFをデュラントとして考えるといかに異常かがわかるデータになりますね!
ウォーリアーズ型も増えていますが、それがデュラントクラスになると手が付けられないですよね。
もうPFという概念自体が死んでいると考えていますが、センターまで守るデュラントのポジションはもはや定義する方法がありません。
そんなデュラントに異常なPGであるウエストブルックが組んでいたわけですから、あの頃のサンダーは10年先の戦術を取り入れていれば違ったでしょうね。
それがどんな戦術かは知りませんが。