バックスのストーリーは何処へ向かうのか

ペイサーズとシクサーズをやってから気がついたのですが、こうやってプレーオフ出そうなチームのプレビューしていくのが現段階の正しい道筋な気がしてきました。
しかし、ウエストは大混戦。ロケッツは以前にもやっているし、ウォーリアーズは前半を振り返る企画でもやったので、またもイーストからバックスの登場です。

 




◉バックスの今季

バックスを語るのは少し早いのですが、その理由は『キッドHCの解雇』と『ジャパリ・パーカーの復帰』の2つから2ヶ月というスパンだからです。もう少し様子を見たいのが本音です。

しかし、何となく見えてきた部分も大きく、残り10試合での変化も含めて考えてみようと思います。今回のテーマはこんな感じ。

 

①アンテトクンポはスーパースターか

②ジョー・プランティーHCでどうなるのか

③プレーオフで勝てるのか

やる事はいつも通りですが、シーズンストーリーがあります。

なお、キッド解任時に書いた記事で数字は補いましょう。
http://nba-data.work/?p=821



まず開幕からアンテトクンポが飛び出しました。MVP予想もありましたが、印象としてはキッドが意図的にやらせている雰囲気でした。そしてチームは思ったよりも勝てない日々です。これは結局はここまでずっと続いています。

その内容に伴いいくつかの変化を生じさせていきました。簡単に言えばこんな流れです。

 

チームオフェンス徹底作戦
→アンテトクンポの個人技マックス作戦
→フロアバランスとって複数個人技作戦

 

昨季のバックスは若いチームながらトライアングルを利用したチームオフェンスをみせました。だからこそ新人王になれたブログトン。それは要のパーカーが離脱しても継続されます。

そして周囲の期待も高まった今シーズンを迎えるにあたりキッドの意図を勝手に解釈すると、

「チームオフェンスの基本は実行できた。しかし、個人の能力が足りない。アンテトクンポのレベルアップを中心に個人の成長を優先したチームビルディングをしよう」

そんな方向性を感じたのです。
まずはオフのトレーニングを経てアンテトクンポが個人でどこまでやれるかを確認し、次にその内容に即したオフェンス構成を取っていきました。

 

極めて好意的な解釈ではありますが、やりすぎていたディフェンス体形も含めて優勝を目指す中での逆算されたチームビルディングを感じていたわけです。



◉アンテトクンポはスーパースターになれたのか

 

おそらく多くの人の答えはYESですが、キッドの求める基準は『優勝出来るスーパースター』だと捉えます。

オールラウンダーとして活躍するアンテトクンポですがシーズン開幕直後は得点が目立ちました。それはハーフコートでも中心としてフィニッシュさせようという意図がみられるシステムでした。

パスが出来ないエースは問題ですが、それはチームオフェンスの昨季にクリアした問題です。ならば新たに求められるのは絶対的な個人の得点力です。

 

今季の月別の成績を見てみます。

◯ヤニス・アンテトクンポ
10月 33.7 FG63%
11月 26.5 FG50%
12月 29.0 FG55%
1月 27.0 FG55%
2月 22.6 FG48%
3月 28.3 FG51%

昨季は22.9点FG52%です。今季はFG53%と確率を落とさずに得点力を伸ばす事に成功しました。また各Q満遍なく得点できており安定してきています。

得点面で1つレベルを上げたと言えるアンテトクンポです。

 

優勝を狙うスーパースターとしては物足りない内容も多いのですが、それは今後身につけて行けば良いものです。現段階で大切なのはベースを上げる事です。

・毎試合30点がデフォルト
・平均20点だけど大事なシュートを決める
この2つならば今は前者を選択すべきです。

そして将来は『毎試合30点で大事なシュートを決める選手』になれば、立派な優勝出来るスーパースターだと思います。



今季のバックスの大切な変化の1つにブレッドソーの獲得がありますが、アンテトクンポでよりも大切なのは「モンローの放出とヘンソンの起用」です。

モンローが不要になってきた事自体は本人にも問題があるのですが、ビッグマンとしては頼りないけど機動性はあるヘンソンにしたのは改革でした。

それはインサイドからビッグマンを不在にし、アンテトクンポが得点しやすくしたわけです。ミドルが苦手なアンテトクンポですが高いFG%を維持して得点を増やせたのは、インサイドでサイズの優位性を活かせるからです。

ちなみにスペンサー・ホーズを開幕前に放出したのは意外でした。3Pセンターはアンテトクンポに合うはずです。ブレッドソーの獲得といいフロント主導な気がします。

 

いずれにせよアンテトクンポの個人技が目立つように組み替えている今季のバックスなので、個人の得点が伸びた事は想定通りでした。一方でそれがチームにとってプラスだったかというと現状維持でしかありませんでした。
そこにはパーカーの復帰が計算に入っていたでしょうから悪くはありません。

◯チームオフェンスから個人技オフェンスに変更
◯アンテトクンポの得点力アップ
◯チーム力キープに成功
◯パーカーによる上積みを想定

これがシーズン前半のバックスだったと捉えています。将来の優勝からの逆算。



さて話をプレーオフ仕様にしましょう。

現状維持にしかならないのに、アンテトクンポに得点をとらせるのはある意味プレーオフのためです。プレータイムが長くなり得点パターンも多く必要になるプレーオフ。

 

同時に同じ相手と連戦となるのでシステムなどの面は読まれ対策されていきます。そんな中で純粋な個人技での得点は対策がないので重宝するわけです。

 

◯得点率
アイソレーション 0.88
ポストアップ 0.88

両方のパターンがあるのは貴重ですが、共に高い得点力とはいえません。悪くもない。
スキル的にピック&ロールに絡めるわけでもないのでこの2つで得点出来るのは重要になってきます。

 

◯トランジション 6.9点

重要なのはリーグで最も得点をとっているトランジションオフェンスです。それはリバウンドから速攻に自分で持っていくパターンは昨季PGとして育てられた部分です。

 

キッドにより順を追って鍛えられてきたアンテトクンポ。十分な得点力を備えてきたものの、今のところ確率論的には不安材料ともいえますが、それはプレーオフで証明するしかありません。

・アンテトクンポは複数の得点力パターンを鍛えられてきた。

・プレーオフで重要なのは個人で打開する能力

・トランジションはリーグ最高レベル

・アイソレーションやポストアップで効率良く得点出来るかが勝負の分かれ目

こんな部分がアンテトクンポの課題であり、期待でもあります。

かなりキッドに対して好意的な見方をしていますが、それはそう考えるのが自然に思えてくるバックスの変化があったからです。

常に中心にあったのは「アンテトクンポで優勝するために、個人で打開する能力を身につけさせる」という視点です。

順調に育てられてきたアンテトクンポは、キッドはいなくなったもののプレーオフでキッドの正しさを証明出来るのか?

それが出来ればスーパースターの仲間入りです。



◉ジョー・プランティーHCでどうなったのか

 

しかし、既にいなくなったキッドについて語っても意味はありません。キッド後のバックスがどうなったのかを見ていきます。

◯成績
キッド 23勝22敗
プランティー 14勝11敗

◯オフェンスレーティング
キッド 107.1
プランティー 108.4

◯ディフェンスレーティング
キッド 107.5
プランティー 105.2

なんだか良くなったようです。特にレーティングでは+3.2と強豪チーム並です。しかもパーカーは復帰したもののブログトンとデラベドバという2人のPGが離脱しており、戦力ダウンの中での改善です。

 

しかし、実はこの内容が非常に苦しいものがあります。

◯対戦相手別の成績
vs5割以上のチーム 3勝9敗
vs5割未満のチーム 11勝2敗

弱い相手から得ている勝ち星が極端に多くなっています。レーティングは大きくプラスですが実際には弱い相手から稼いでいるだけです。単に5割未満の相手が多かっただけのプランティー時代です。本人は悪くないよ。

キッドの時はvs5割以上が11勝16敗でした。成績が悪くて解任されたわけですが、分解してみるとそれが正しいのかは疑問なわけです。



もはやキッドの記憶も薄いので比較が正しいか自信がないのですが、プランティーによる変化は偏っていたキッド流からの正常化でした。それは特にディフェンス面で顕著です。

◯キッド→プランティー
被FG 47.2%→45.6%
被3P 38.1%→34.7%

著しく改善した被FGです。特に3Pへのディフェンスはリーグ上位にジャンプアップです。不思議なのはこれだけ改善した割には成績は伴わない事です。

 

◯被オフェンスリバウンド 9.1→10.6

こちらは逆にリーグ上位から下位への転落です。要はシュートを落とさせるようになったけども、その分オフェンスリバウンドを許しているわけです。差し引きゼロみたいなバックス。

つまり良くなったようで良くなっていません。個人的な感想としては、バックスディフェンスはボールマンに対するヘルプポジションを全体でとるのが特徴でした。

そのディフェンスにはパスに対しても全体で連動する必要があるのですが、それが出来ないと簡単に崩壊します。だから批判されたキッドです。

 

後を受けたプランティーは自分の好み関係なくその点は改善する必要がありました。ヘルプよりも個人を守る意識を高めます。

それは弱い相手にイージーシュートを決められるリスクを減らしてくれましたが、強い相手に個人で突破されるリスクは大きくなりました。

 

バックスのディフェンスは改善したようでいて、安定を手に入れた代わりに強者に弱くなりました。それはシーズンでは良いけどプレーオフには悪いです。



非常に苦しいバックスですがネガティブなのではなく、致し方ない部分も大きいです。

昨季の新人王マルコム・ブログトンが台頭した理由はチームの中でバランスを取り、変化を促し、リスクを減らす動きをしていたため、プレータイムが増えるごとにチームの勝率が高くなったからでした。

そんなブログトンにデラベドバが離脱している中で5割を勝っているのだから悪い結果ではありません。

 

バランサーを欠いている状態のバックス

そろそろ戻ってくるはずなので、期待したいところです。逆に言えばブログトンくらいしか気の利いたポジションをとったり、相手の先読みをしてくる選手がいません。

バックスの悩みどころはチームをオーガナイズ出来る選手が足りない事です。それを代役HCに育成しろというのは酷な要求です。



プランティーを否定することは出来ません。ブラウンが新たに台頭し、新しく獲得したゼラーもいて新風を吹き込んでいます。

しかし優勝から逆算していたキッドにはパーカーの復帰に伴い、個人技アタックからチームオフェンスへの回帰を想定していた気がします。

 

現状ではオフェンス面での手詰まりが目立ちます。重要な局面で何に託すのか?

幸いにしてアンテトクンポはいつでも強いし、ミドルトンの勝負強さもあります。ならば個人により頼る方向で動くのか、それともチームでのパターンを徹底するのか。

残念ながらそれをコントロールするためのゲームメイク能力に欠けているのがバックスです。クラッチタイムなブレッドソーが選択する3Pにため息をもらす機会が多くあります。せめてアンテトクンポが外してくれと。

 

プランティーはこの部分でもっと強く自分を出す必要があります。やっている事は否定しないけど、勝つために何を選ぶのか?
何のために今季のオフェンスシステムがあるのか?

そこをプランティーに問うのは可哀想だけど、それでやるしかないならば腹を括ろう。



◉プレーオフで勝てるのか?

 

バックスが期待を抱かせたのは昨季のプレーオフでの奮闘です。ラプターズ相手にタフなシリーズを戦い、疲弊した上に問題を露呈したラプターズはキャブスに良いところなく敗れました。

しかし、上記の通り今季の対戦成績には問題があります。

セルティックス 1勝2敗
キャブス 1勝3敗
ペイサーズ 1勝3敗
ヒート 0勝3敗
シクサーズ 2勝1敗
ラプターズ 1勝2敗
ウィザーズ 2勝2敗

強い相手に勝てないバックス。残り試合は5割勝てそうな相手なのですが、ヒートも似たような相手なので7位争いが続きます。

6位なんかもあり得ますがキャブスやペイサーズには勝てる雰囲気がありません。先日のキャブス戦は酷かった。

一方で何故かラプターズ戦は素晴らしい内容でした。理由はよくわかりません。強敵ではありますが、昨季に続いての対戦は悪くないです。

 

結論的には今のところ勝てるイメージが全くわきません。アンテトクンポとパーカーがかなりステップアップしないと無理です。

それを期待するならばセルティックス相手が良い気もします。1人ひとりのマッチアップならばそこまで劣るわけではなく、スマートがいないのでブレッドソーがフィジカルの強さを活かしやすい相手でもあります。

 

ちょっと苦しいバックス。キッドがアンテトクンポに仕込んできたものはプレーオフで身を結ぶのか?



ホームコートアドバンテージは難しいし、シクサーズ以外は相性も悪そうなので、ある意味もうどこと当たろうが関係ないようなバックス。ならば順位や勝率を気にするよりもチームに足りない部分を整える事を優先したいところです。

 

残り試合でやらなければいけない事は3つ
・ディフェンスの再整備
・セットオフェンスの徹底
・ベンチメンバーの役割

なによりもディフェンス問題は急務です。スカスカで守っているといえないディフェンス。それは個人を信じすぎています。ヘルプディフェンスからキックアウトされるのは諦めてでも、ドライブを止めなければいけません。

それは現状だとキックアウト先を読む能力が伸びてこないから。あっさりとドライブだけでシュートにもっていかれるのでディフェンスローテーションがありません。

個人技アタックが増えるプレーオフならば、止めるべきはドライブであり、リバウンドに意識を向ける方が先決です。

 

2つ目はセットオフェンス。バックスで1番怖かったのはアンテトクンポがオフボールで合わせてくるパターンです。オンボールプレーが増えすぎているので、セットオフェンスで最後に出てくるパターンを徹底したい。
それはまたパーカーをより使っていく選択肢でもあります。パスも出来るパーカーなので起点として機能させたいところです。

 

3つ目はベンチメンバーの役割が何なのか。テリーはシューターとして活躍しました。ゼラーはゴール下の固さで貢献します。メイカーはショットブロックと3Pで広げます。

それぞれに役割がありますが、相手への対応を考慮しているのかがちょっとわかりません。このパターンのオフェンスは誰が何をするかを理解しているのが重要なので、起用はメッセージになっていないと苦しくなります。

プレーオフ限定ならば、もっと役割を徹底してやらせた方が上手くいくでしょう。

 

3点とも「やる事を減らす」のが目的です。取捨選択しないとバラバラな形になりそうなバックス。オフェンスでの複数の役割はアンテトクンポとパーカーに任せて、チームで戦う形を思い出したいところです。



◉あとがき

 

あまり良いイメージを持っていないバックス。その理由はチームの方向性にあったわけです。プランティーが悪いのではなく、これから次に発展する方向性がわかりにくかった。

そしてキッドが良いとかではなく、HC次第になってもいけないということです。フロントのプランニングって大切。

同じ事をやらかしているのはグリズリーズ。5人が広がって個人技アタックというバックスと同じ事をやって負け始めるとフィッツデイルを解雇しました。すると同じ事をしているようで変化に乏しくなり、落ちる一方でした。

バックスはよりタレントに恵まれているので簡単に勝率は落ちませんが、やはり変化をもたらすアクセントを欠いています。

 

アンテトクンポという特別な選手がいるのでプレーオフでの勝利を諦める理由は何もありません。しかし、来季の事を考えているのも事実で、後任候補が騒がれています。

何人か候補がいますが、
フィッツデイルは現在に近いので止めよう
マクヘイルはアンテトクンポと上手くやるとは思えない
ジェフ・ヴァン・ガンディーは悪くないけど、現代バスケに対応出来るのかな?
リック・ピティーノとかウケる

モンティ・ウイリアムスが最も適しているように思えます。何が得意かはよく知りませんが、現在はスパーズ、その前はサンダーなので手元にいるメンバーを組み合わせて考えてくれそうです。



バックスファンにはがっかりさせるような内容かもしれませんが、現在地はこんな感じに思えます。

しかし、難しいものでスパーズはオルドリッジで突然復活したし、ナゲッツはミルサップで急降下したし、ほんの少しのきっかけで大きく変わるのもよくある話です。

足りないのがアクセントならばブログトン抜きで苦労したからこそ、復帰したらより効果的なアクセントになるかもしれません。そこに期待するしかないけど、期待は出来るわけです。

 

それにしても5人で大きく広がるシステムは当たり外れが激しいです。まぁ広がっているだけでオフェンスが成り立つならば誰も苦労しないわけですからね。

他の若手チームよりも前を走っていたはずのバックス。シクサーズの追撃により未来のチームとしての地位も脅かされています。

今季のプレーオフでアイデンティティを示せるのか?

結果だけでなく方向性が問われるアンテトクンポとバックスです。

 

バックスのストーリーは何処へ向かうのか” への4件のフィードバック

  1. とても興味深い内容でした。
    こう書かれてみるとキッドのやりたかったことも見えてきますね。
    正直キッドがブラッドソーを欲したとは思えないのですが、その点はどうお考えでしょうか?

    1. キッドがブレッドソーはないと思います。ついでにデアンドレ・ジョーダンもないと思います。

      今季のオフェンスのためにブレッドソーだったのか、ブレッドソーのために今季のオフェンスだったのかも気になります。

      バックスのフロントはブログトン発掘したし、アンテトクンポやミドルトンとよく見つけてくるのに、その割にトレード話は胡散臭いですね。

  2. とても面白い内容でした
    バックスについて持ってた違和感はもちろん
    グリズリーズについても触れていて納得のいく内容でした
    グリズリーズは再建に入ってしまいましたが
    今後リーグを面白くするためにもバックスは方向性を誤らないでほしいです

    1. バックスはアンテトクンポがいるのでHCを選び易いはずです。しかも早くから接触できるので、いまが本当に勝負どころかもしれません。

      候補者の名前をみると実績重視っぽいので、安定感重視になりそうです。

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